FINAL-PHASE 見えたもの見えなかったもの
連合軍とザフト軍の殺戮のような戦争から二ヶ月・・・。
シルバ・スミス・ハインドを宇宙へと見送ったエドワウ・ディバッツ、
いやダーク・ケヴィン・ハインドはオーブのとある喫茶店に入った。
「あ!ケヴィン。遅いですよ〜。」
店の隅にいたディスク・バイオレットはダークを呼んだ。
そのテーブルにはもう一人少年がいた。
「あぁ、済まない。君も済まないな、待たせて。
ツェップ・・・いや、フェニクス・ゼロだったな・・・。」
フェニクス・ゼロと呼ばれた少年はニコッと笑った。
「どちらでも構いませんよ。
それよりも、教えてください・・・。
俺の身の回りに起こったことを・・・。」
「あぁ。」と短く返事をして、ダークはコーヒーを一口啜り、
フゥとため息をついて話し出した。
「そうだな・・・。」
それは、二ヶ月前――。
連合軍とザフト軍は最終局面に入り、更なる混迷を極めていた。
核をボアズに放ちボアズを突破した連合の艦隊は、
更にプラント本国へ向けて核を放つも、フリーダムとジャスティスの
善戦により阻止された。
それに対するザフトもジェネシスによるガンマ線の嵐で連合の艦隊と、
プトレマイオス基地を壊滅させた。そして、第三射目を地球へと向けようとした。
――両軍を止めなければ。
その一つの目的が達成されるのはきわめて困難であることを
エドワウもヘルもリッチーも、十分分かっていた。
しかし、退くわけにはいかない。
それぞれの思いのために――。
『プラントは撃たせない!!』
エドワウのビームはメビウスを捕らえ、強烈な閃光と共に消え去った。
ヘルとリッチーも、それに続いてメビウスを破壊し続けた。
『しかし、これではキリがありませんね・・・!!』
そう言ってヘルもメビウスを撃ち続けた。
ほとんどのメビウスを片付けた後ヘルは強い憎悪を感じた。
『これは・・・。』
それを発している先に視線を向けると、
紫色のゲイツとロングダガーがこちらに向かってきていた。
ヘルとリッチーは、キッとその2機を睨みブースターを吹かした。
『ヘル。今度こそケリを着けるぞ!!』
そう言って猛スピードで、向かっていく赤と青のジンを見送ると、
エドワウもジェネシスへと向かった。
ジェネシスに近づくものを確実に破壊する黒いゲイツをエドワウは見つけた。
『やめろ!シルバ!!
お前のしていることはただの殺戮だ!!』
黒いゲイツにのるシルバは接近してくる白銀のシグーを睨み、ニヤリと笑った。
『エドワウ・ディバッツか!!
今日こそお前は殺してみせる!!』
『・・・エドワウ・ディバッツ。その偽りの名前はもう終わりだ。
俺はダーク・ケヴィン・ハインド。お前の兄としてお前を討つ!!』
シルバはビームライフルをシグーへ向けて放った。
それをかわし、反撃をするダーク。かわしたシルバはダークへの怒りを露わにした。
『結局はお前の答えはそれか・・・!
いつもお前は俺を裏切る!
何故だ!?何故お前はいつも勝手なことばかりするんだ!?ケヴィン!!』
『勝手なこと??
何も知らないのに知ったような口を利くな!!スミス!!』
そう言って白銀のシグーに乗る兄と、黒いゲイツに乗る弟はビームによる応酬を始めた。
エターナルの後ろについているシャトル内のディスクは祈るのみだった。
「ケヴィン・・・。信じていますよ・・・。」
リッチーとツェップ・ソロモンも相変わらずの戦いをしていた。
遠距離での銃撃戦のほとんど無い、モビルスーツ同士のぶつかり合い。
それがリッチーもツェップも自分のスタイルに合っている。そう思っているのだ。
『へへ・・・。やっぱりこれじゃねぇとな!!
“不死身”のリッチーさんよ!!』
そう言ってツェップはいつものように斬りかかる。
それをチャッキー・ブレード・ネオで受け止め鍔迫り合いになる。
『名前を覚えててくれたのかィ!そりゃあ光栄だな!
俺も楽しくなってきたよ!!ツェップ・ソロモン!!』
ロングダガーはジンに蹴りをお見舞いする。
それをモロに喰らったリッチーのジンは後ろに吹き飛ぶ。
『クソ!!やりやがったな・・・!!?』
そう言ってロングダガーを見ようとした瞬間。
数発のミサイルがジンに襲い掛かる。
『馬鹿の一つ覚えだなコリャ。』
リッチーはそう言って、パルデュスを撃ってミサイルを誘爆させた。
ニヤリと笑って、バーニアを吹かし始めた瞬間。
高速のリニアガンがリッチーを襲う。
それを辛うじてかわしたリッチーの目の前には、
ロングダガーがビームサーベルを振り下ろそうとしていた。
『じゃあな!楽しかったぜ!!おっさん!』
『クソッ・・・!!』
咄嗟に差し出したチャッキー・ブレードによって難を逃れたリッチーは
慌てて体勢を立て直し、ロングダガーを睨んだ。
『へッ・・・やっぱり油断したな!!
その程度じゃがっかりだったぜ!!』
『テメェ・・・俺をおっさん呼ばわりしやがって!!
ぶちのめしてやる!!』
リッチーの咆哮により更に、戦闘への高揚を感じたツェップはニヤリと笑った。
――これが俺の存在意義だ!!
再びツェップとリッチーの斬り合いが始まった。
しかし、戦いが長引くにつれて二人に体力の消耗による疲労が襲い掛かる。
さらにツェップには薬の効果の時間制限もある。
リッチーも、ツェップも、お互いがこれほど手こずる相手だとは思いもしなかった。
そこでリッチーが口を開いた。
『正直、お前の力たいしたもんだぜ・・・。』
『へっ・・・。アンタもなかなかやるじゃねぇか。
久々に楽しかったな・・・。』
リッチーは少しだけニッと笑うが、すぐに真面目な顔になった。
『俺も楽しかった・・・。
だが残念なお知らせだ。
俺はもう疲れたし、お前も薬が切れるだろう・・・。
その前に、終わらせてやる。』
ツェップもニヤリと笑い、ロングダガーのビームサーベルを二本構えた。
『ヘッ。なら、アンタとはお別れだな!』
『あぁ、じゃあな。クソガキ!!殺してやるよ!!』
『いや、死ぬのはお前だ!!おっさん!』
両者が猪のようにぶつかり合おうとしたその瞬間、
太い光線がロングダガーの脇を奔った。
『え・・・?』
ツェップが振り向くとそこにはソルートの乗る戦艦ウリエルが
銃口をこちらに向けていた。
『母さん・・・。何を・・・?』
そう言うと、何かが上に乗ったような重みをツェップは感じた。
振り向くとそれは左半身を砲撃により失った赤いジンだった。
『・・・チッ・・・。やられたぜ、あの女・・・。
これが狙いだったか・・・。やっぱ・・・えげつねぇ・・・。
“不死身”の二つ名返上だなコリャ・・・。
だけどこの勝負は・・・引き分けだぁぁぁぁ・・・!!』
そうリッチーが叫んだ次の瞬間、ジンから強烈な爆炎が巻き上がる。
リッチーは最後の攻撃の手段として自爆を選んだのだった。
爆炎から増加装甲のなくなったロングダガーが
巻き込まれる間一髪のところで脱出した。
『・・・ハァ、ハァ。あの野郎大したもんだぜ・・・。
自分の負けが嫌で、マジで俺を巻き込もうとしやがった!!
だが生き残ったのは俺だ・・・。でも・・・でも!!』
そう言ってコクピットを叩いたツェップは、
涙を流しながらウリエルへ引き返していった。
そして宙域には朱色のバーニア片だけが残っていた。
ヘルとアスタロトの戦いは序盤から熾烈を極めていた。
『フッ・・・。その動き、俺を殺すことに迷いは無いみたいだな・・・!!』
そう言って、アスタロトはゲイツのライフルを撃ち続けた。
それをかわすヘルの反撃は致命傷を避けられない所へ向けられるが、
アスタロトもうまくそれをかわす。
『ええ。貴方はただの殺戮者です。
ここで止められなければ、ヘヴンの魂は更なる闇に堕ちてしまう。
その前に救ってみせます!』
『フン・・・!それがメンデルで見出した答えか!!
どちらにしろ楽しめる戦いになりそうだ!!』
そう言ってゲイツはエクステンション・アレイスターを射出した。
今度は迷わない。そう決めたヘルは、ビームでそれを破壊した。
そこに奔る一筋の光が、ヘルのジンのライフルを撃ち抜いた。
アスタロトはニヤリと笑う。
『それでも、俺には勝てないな・・・。
ここで死んでもらう!ヘル・ガリバルディ!!』
残された武器は重斬刀と・・・ア−マーシュナイダー。
ヘルはため息をついた。もう少し装備を充実させておけば・・・。
そんな一瞬のうちに数発の光線がヘルに襲い掛かる。
その光線を避けつつ、ヘルは落ち着いてゲイツのライフルを狙い、
アーマーシュナイダーを投げつける。それはゲイツのライフルに突き刺さり、
爆発した。アスタロトはヘルを睨みビームクローを展開させた。
『これで対等ですね。アスタロト!』
『対等!?お前と俺の能力の差を考えて言っているのか?』
そう言ってアスタロトは斬りかかる。
ヘルは重斬刀を抜き、それに応じる。
ゲイツの一撃目をかわしたジンは、横一閃に剣を振り抜く。
ブーストを吹かし、上に避けたゲイツはすぐさま逆噴射させ、
また左腕を振り抜く、ジンはその攻撃をかろうじて避けた。
その瞬間リッチーのシグナルロストを伝える警告音が
ジンのコクピットに鳴り響いた。
「リッチーがやられた!?・・・そんな・・・。」
ゲイツはジンに容赦なく蹴りをお見舞いした。
吹き飛ぶ青いジン。その中でヘルはフと眼を閉じた。
長年ともに戦ってきた仲間が死ぬということが
ヘルの現実に降りかかったことで、動揺していた自分を冷静にさせようとしたのだろう。
そして、残された自分がどうすればいいのかヘルはよく分かっていた。
『決着』を。
その二文字はヘルに力を与えてくれた。
冷静にバーニアを吹かし背後に迫るヤキン・ドゥーエの外壁との
接触による衝撃を和らげた。
近くでは、白銀のシグーと漆黒のゲイツが死闘を繰り広げていた。
『ヘル!!大丈夫か!?』
エドワウの声が聞こえた。
ヘルは『大丈夫です。』と言い、ニコッといつものように笑ってみせる。
『何を余所見している?
お前にはそんな余裕はないはずだ!!』
そう言ってスミスの乗る黒いゲイツが放ったビームは、
白銀のシグーを完璧に捉えていた。
咄嗟に盾を差し出し致命的なダメージは避けたものの、
よろめいたシグーはさらに重いものに当たり、吹き飛んだ。
『うわぁっっ!!?』
シルバの乗る黒いゲイツが猛スピードでタックルをしたのだ。
すぐさま体勢を立て直したシグーは、
自分に向けられたゲイツのライフルを、撃ちぬき
もう一発をゲイツの頭部に放つもシルバはそれをうまくかわした。
『エドワウ!!』
ヘルに答えるように、ダークもにっと笑う。
『大丈夫。だからアンタはアンタのするべき事を!』
そう言って白銀のシグーは黒いゲイツに向かって飛び立った。
ヘルはダークの言葉にコクリとうなずき、飛び立とうとした瞬間、
モニターが真っ暗になった。
『捕まえたぜ・・・。もっと楽しませてくれるんだろう?』
青いジンの頭部は紫色の悪趣味なゲイツに掴まれてしまった。
そこに、ヤキンの自爆を告げるテキスト通信が流れ込んできた。
(・・・!これは!!)
クローを構えるゲイツの胴を蹴り飛ばし、逃げるように体勢を立て直した。
『そうだ・・・。まだ足掻いてくれよ!!』
『いいえ。もう終わりにします・・・。』
アスタロトはニヤリと笑った。
『そうか。なら死んでもらうぞ!!
そして俺は自由になる!!』
アスタロトが斬りかかるのを
ヘルはひらりとかわす。
『貴方は自由になんかなりませんよ・・・。
たとえ僕を殺しても、生きていく限り。
僕の友を殺した罪と様々な人を殺した罪は背負わなくてはならない!!』
『それはお前とて同じだろう!?』
アスタロトはクローで何度も突きかかるが、
ヘルは巧くそれをかわし続ける。
『ええ、同じです。でも貴方のように自分を見失う様な事はしない!
僕はヘル・ガリバルディとしてこの命を生き続けます!!』
アスタロトには自分が誘い込まれていることは気づかなかった。
見境なしに、目の前に飛び散る破片を砕きヘルに斬りかかる。
『だからどうした!死ぬ奴にそんな事を言われる筋合いはない!!』
雄雄しく突撃するアスタロトを前に、ヘルは静かに眼を閉じた。
様々な思いが頭をよぎった。
――僕にある力・・・。
それの抑え方は分からない。
もしかしたらヘヴンのような道を辿るかもしれない。
だけど、僕はヘルであり続ける!!
勝負は一瞬・・・。
もう迷うことは無い――!!
アスタロトのビームクローがジンの頭部の角にかかった瞬間。
ヘルは眼をカッと見開き、ゲイツの懐に入り込んだ。
ゲイツの両脚を斬り、振り下ろされた左腕も斬り飛ばした。
そして、瞬く間に右肩に重斬刀を突き刺して要塞の壁に磔にした。
さらにゲイツのメインカメラを潰し、
残されたアーマーシュナイダーをゲイツのコクピットに向けた。
『ハァ・・・これで・・・、終わりです。
アスタロト・・・。あとちょっとでヤキンは自爆します。』
動けなくなったゲイツの中で、
アスタロトは歯を食いしばり周りの状況とヘルを見た。
追い詰めているはずの自分が逆に追い詰められていたのだ。
『く・・・。まさかこの俺が、こんな惨めなやられ方を・・・。
だが、いいのか?俺を殺せば、ヘヴンも死ぬんだぞ!?』
ヘルはその言葉に俯き、目を閉じた。
しかし、もう迷わないと自分に誓ったのだ。
顔を上げたヘルは、操縦桿を引いた。
『迷いは・・・ない!!』
コクピットに深々とアーマーシュナイダーは突き立てられた。
光に包まれるゲイツから何故か通信が入った。
『・・・ありがとう・・・。』
聞こえた言葉はヘルには優しく、懐かしいものだった。
それを聞いたヘルは、グッと歯噛みをしてヤキン・ドゥーエを脱出した。
脱出した直後、崩れ行く要塞を背にしたヘルは
遠くにいる見覚えのある機体と戦艦をモニターで見つけた。
「・・・大事なことを忘れてましたね・・・。」
ヘルはバーニアを吹かし、最後の後始末へと向かった。
連合の小型戦艦ウリエルに着艦したツェップの表情は怒りに満ちていた。
薬が切れかけている苦しみもあったが、何より彼の怒りに触れたのは
ソルートが放った狂気の一撃だった。
ツェップは止めに入る乗組員全てを薙ぎ倒し、
ソルートのいる艦橋にたどり着いた。ソルートの真意を知るために・・・。
「ツェップ・・・。よくやりましたね。
これで残すは、ヘル・ガリバルディだけとなりました。」
そう言って冷たく笑うソルートへ向けて、ツェップは銃を向けた。
彼にとっての戦いが何であるかを一番分かっているはずの者に、
裏切りに近い行為をされたことが何より許せなかった。
「なんで・・・。なんでアンタが俺から戦うことを奪ったんだ!?」
ヘルもウリエルへと接近した。
普通だったら攻撃されてもおかしくないはずなのに・・・。
ヘルは訝しそうに、カタパルトへと近づいた。
やはり、攻撃をするような素振りは見られない。
むしろ、人の気配すら感じられなかった。
青いジンはウリエルの内部に侵入し、
ヘルは銃を片手にさらに奥へと侵入していった。
その戦艦の内部には血飛沫が飛び散り、多くの連合兵士が横たわっていた。
「・・・?反乱が起きたんでしょうか・・・?」
ヘルは連合兵士の様子を見るが、ほとんどが死んでいた。
そのときヘルの耳に銃声が聞こえた。
「艦橋か・・・?とにかく急がないと!」
「ぐっ・・・!あぁぁぁぁぁ!!?」
ツェップの脇腹から血が飛び散った。
ソルートが撃った銃によってツェップはソルートの前に膝をついた。
「あなたは良くやりましたよ・・・。
しかし、仲間を殺すのは良くありませんね?
今のはお仕置きといったところでしょう・・・」
ツェップはソルートを睨み付けた。
その目をソルートはたじろぎもせず見つめ返した。
「ケッ・・・。仲間だぁ?アンタにとって・・・
仲間なんざ、ただの戦争の駒だろう・・・?」
「ええ、そうですよ・・・。勿論貴方もですがね。」
ソルートはフッと笑い、銃口をツェップに向けた。
艦橋に響く銃声。
肩に銃弾を受けたソルートはよろめいた。
引鉄を引いたのはヘルだった。
「大した執念ですね!私のためにここまで来るとは!!」
ソルートはすかさず撃ち返し、艦橋を脱出した。
ヘルは銃弾をかわすも、ソルートを取り逃がしてしまった。
舌打ちを軽くしたヘルは、横たわる少年に肩を貸した。
「大丈夫ですか・・・?」
近寄ろうとしたヘルにツェップは力なく銃を構えた。
「寄るんじゃ・・・ねぇ・・・。
俺は・・・お前を殺そうとした人間だ・・・。
そして、お前の仲間も・・・殺したんだ・・・。」
ヘルは首を横に振り、ツェップを立ち上がらせた。
「確かにそうかもしれません・・・。
でもリッチーもそれは覚悟の上で戦ったんですよ。
それに、あなたにはリッチーの分まで生きてもらいます。」
「だけど・・・俺は薬が無いと・・・。」
ヘルはニコッと笑った。
「大丈夫。僕に考えがありますから・・・。
あなたの薬による依存レベルはかなり低いものだと思われます。
だから、血液に免疫を作って・・・」
よく喋る変わった奴だな・・・妙な安堵感を覚えたツェップは
こんな奴を殺そうとしていたのかと思い、フッと笑い意識を失った。
次に目が覚めるとツェップは明るい部屋にいた。
体は動かない。目の前にぼんやりと
白衣の人間が何人か立っていた。
その中で一人、笑いかけてくる人がいた。
「絶対に、助けて見せますよ。」
何となくしか覚えていないが、それはヘルに間違いないとツェップは思った。
――「・・・という訳で、今お前はここに居るってことだ。
・・・って言うか何でディスクが泣いてるんだよ?」
ダークとゼロが、ディスクの方を見ると彼女は大粒の涙を流していた。
「だって・・・ヒック、感動の話じゃないですか〜。」
「感動かぁ?まぁ、嫌な思いは沢山したけどなぁ・・・。」
ゼロは自分がツェップであることを理解した。
ヘルに助けられたことは何故か覚えている。
しかし、気がかりなことがあった。
「ヘルは・・・。ヘル・ガリバルディはどこへ行ったんですか?
俺に名前をつけてくれたあの人は・・・?」
ダークはコーヒーを一気に飲み干し立ち上がった。
「あぁ〜・・・アイツは・・・。
元気に傭兵生活やってるんじゃないか?
自由な人間だからな。
だから心配せずに俺たちは俺たちの仕事をするぞ。」
ディスクは首をかしげて、ダークに尋ねた。
「仕事って・・・どこへ行くんですか?」
ダークは思い出したように、ゼロとディスクに袋を渡し、
「オーブ軍だ。」と一言言ってニカッと笑った。
その突飛な一言にゼロとディスクは目を丸くした。
同じころ、ソルートが隠れているユーラシアの地に、
帽子を深く被った一人の配達員がバイクに乗ってきた。
警備員と何やらボソボソと話をしただけで、
中身を検められる事無く中へと通された。
配達員は施設の中でもかなり立派な扉を開けると帽子を取り、口を開いた。
「お久しぶりです。ソルート中佐・・・。」
椅子に座っていた黒く長い髪の女兵士は、
そう丁寧に挨拶した人物のほうへ顔を向けた。
「フフ・・・。やはり来ましたね・・・ヘル・ガリバルディ・・・。」
ヘルはニコリと笑い銃口をソルートに向けた。
それに対しソルートも動じることなく、立ち上がり銃を構えた。
「無駄な抵抗はやめてください。
ここに貴女の味方はもう居ません・・・。」
「フッ・・・。チェックメイトですか・・・。」
ソルートは銃を下ろし椅子に座った。
「上層部はなんと言っていましたか?
やはり私も駒として切られたわけなのでしょう?」
「お察しの通りです・・・。
しかし、貴女もそれを分かっていて部下を
同じように切っていったのでしょう?」
悲しい表情を浮かべたヘルを見てソルートは笑い、立ち上がった。
彼女が声を上げて笑う姿を見たのは二度目だった。
ヘルは目を丸くした。
「ハハハ・・・。貴方がそんな表情するなんて意外でしたね。
・・・ところで、ツェップは生きていますか?」
「ええ。」と短く答えるとソルートは、
今まで見たこともないようなやさしい表情で笑った。
「そうですか・・・。ならば、もう思い残すことはありません・・・。」
ソルートは後ろを向き、両手を広げた。
「ヘル・ガリバルディ・・・。貴方の勝ちです・・・。
貴方は自由です・・・。」
ヘルはためらわず引鉄を引く。
銃弾はソルートを貫いた。
倒れるソルートを見て、ヘルは呟いた。
「僕ははじめから・・・自由でしたよ・・・。」
報告を一通り済ませたヘルはバイクにまたがり、道の先を見た。
ヘルはタバコをふかして、バイクのエンジンをかけた。
道の先には何が待っているのだろうか・・・?
まだ世界がどのようになるのか、まったく検討がつかない。
だがどんな困難が待っていようとも、自分を見失うことはない。
自分はヘル・ガリバルディなのだから――。
ヘルはタバコを捨て、走り出した。世界という名の仕事場へ・・・。
THE END
≪-Where Do We GO from here?- 〜完〜≫
[あとがき]
消です。なんとか終わりました。
ツェップは最終的に強化人間じゃなくなりました。
でも、記憶を失ってからは猫をかぶって敬語なんて使ってます。
この最終話いろいろありました。パソコンが壊れて、
実家でしか打てないという事態に陥ったり
自分の中で納得行かないと思って構成を思い切って変えたり・・・。
ため息しかでませんでした。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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