PHASE-03 問うもの、答えるもの
「あぁ。こんなところにいたんですか。
隊長がお呼びです。艦橋までお越しください。」
その男は休憩室でタバコを吸っていた。
灰皿はその男が到着してからすでに山のように吸殻が積んであった。
「ん?悪ぃな、すぐ行く。」
男は立ち上がる。
髪の毛はボサッとしている紫の直毛で、やる気の無い眼。
悪趣味なワインレッドのスーツに黒いシャツを着ている。
身なりはしっかりしているが、どこかヘル・ガリバルディに似ている。
その男の名はアスタロト。本名ではないが今までもそう呼ばれている。
そして傭兵であるが、一切の素性は誰の手にも知られていない。
アスタロトが艦橋に入るとヘルを見たときと同じようにどよめきがおきた。
そしてソルートは立ち上がり、その冷たく鋭い瞳で彼を見た。
「お待ちしていました。アスタロト。
私は・・・。」
「自己紹介なら結構。
アンタはソルート・ソロモン中佐。この特別強襲部隊の隊長さんだろ。」
艦橋内は更にどよめいた。
その眼を見れば凍りつき、鬼と呼ばれていた彼女に反発的な態度をとったのは、彼が二人目だったからだ。もちろん一人目はツェップだが・・・。
「悪いな。あんた達のことは大体調べさせてもらった。
なかなか軍内、外でも評判悪いぜあんた等。」
「てめぇ。誰に向かって口聞いてるんだ?オイ。」
艦長の隣で容態の落ち着いたツェップが毛布に包まりながら食って掛かった。
アスタロトはフゥっとため息をつきニヤリと笑いながら呟いた。
「お前はツェップ・ソロモンだな。
この間の戦いも見させてもらったよ。追い詰めたところまで良かったが、詰めが甘かったな。あれで勝てないのはお前の実力不足ってところかな・・・。」
悪態をつかれたツェップは更に怒りを露わにした。
「テメェ!さっきから言わしておけば!!」
スッと座席から立ったソルートは冷たい笑みを浮かべた。
その眼をアスタロトはたじろぐことも無く直視していた。
「よく短期間で調べ上げましたね。
その分だと我々が追っている男の名前も知っているでしょう。」
話が変わった途端、アスタロトの眼の色も変わった。
「知っているさ。ヘル・ガリバルディだろ・・・。
アイツだけはこの俺が殺す。
そうしなければ俺の過去は消し去ることはできない・・・。」
アスタロトの憎悪の眼を見たソルートは、さらにアスタロトに問いかけた。
「ならば貴方の腕を見せてもらいましょう。
ヘル・ガリバルディの行き先を知っているのでしょう?」
挑戦的な眼でソルートはアスタロトを見た。
その眼差しを見てアスタロトは艦橋を出ていった。
ソルートは艦内に指令を流す。
『これより我が隊はカーペンタリア近海へと向かい、
ヘル・ガリバルディ及びその一味を討伐する。第一種戦闘態勢発令だ。』
ツェップはソルートが受話器を置くと不満そうに口を開いた。
「何だよ。今回の作戦は俺抜きかい??」
「いいえ、貴方はアスタロトについて行ってもらいます。
彼と共に行動して行けば、ヘル・ガリバルディに必ず遭遇するでしょう。
無論フェニクス・リッチーにもね。」
ツェップはニヤリと笑ってソルートをみた。
「はは〜ん。なんとなく読めたぜ。アスタロトの正体とあんたの考えがな。」
「なら、行動に移してくださいツェップ。
彼も大きな動きはしないでしょうが、もしもの時は・・・わかってますね。
私達の命運は貴方にかかっていますからね。」
「やっぱり、鬼畜だなアンタ・・・。」
ツェップは毛布を投げ捨て、艦橋を出るとアスタロトのもとへ向かった。
アスタロトは格納庫でザフト製のモビルスーツらしき機体のコクピットに座っていた。
ツェップの視線に気づき、やれやれというような顔で話しかけた。
「どうしたツェップ・ソロモン・・・?
俺はもうちょっとしたら出発する。お前も準備した方がいいんじゃね?
俺を監視するんだろ?」
「フッ・・・(こいつ・・・見透かしてやがる。)」
ツェップは鼻で笑うとアスタロトのモビルスーツを見た。
その姿はジョシュアでは見たことの無いような姿かたちをしていた。
アスタロトはその興味の目線を見て、キーボードを叩きながらしゃべり出した。
「コイツはゲイツ。形式番号ZGMF−600、各種ビーム兵器を搭載したザフト初のビーム兵器標準装備型量産モビルスーツだ。
もっともコイツは試作の段階だから出力の調整ができていないんだ。
だから今回コイツは出さない。」
「はぁ!!?何言ってんだお前?
アッチが丸腰なんだからモビルスーツで叩くのが常套だろう!?」
アスタロトはため息をついてコクピットから出てきた。
「お前らから考えたらそうだろうな。
だが、俺達の向かう先はザフトの領海だ。
そんなところでドンパチやらかしたらザフトに攻撃されるだろう?
そこで敢えて戦闘をしないで、基地内で接触しようと思う。」
「ついて来い。」そう言って、アスタロトはブリーフィングルームへと向かう。
ツェップはそれについていった。
アスタロトはブリーフィングルームのモニターに映像を映した。
「お前はこの白銀のシグーと戦り合っただろう?
コイツのパイロットはザフトの軍人。ダーク・ハインドだ。
おそらくコイツがヘル達を雇った人間なのだろう・・・。
そしてお前はジンを二機中破しただろう。
その修理のためにカーペンタリアへ向かったと思われる。」
「それで俺達はどうやってそこへ行くんだ?
このままの格好で行ったら俺とアンタはただのアホだぜ?」
ツェップが皮肉っぽく言うと、アスタロトは次の映像を出した。
「そこで彼に力を借りようと思っている。
ダーク・ハインドの弟であり、俺の友人でもあるシルバ・ハインドにね。」
カーペンタリア基地、レンブラント隊員室に着信音が鳴る。
部屋の中には男が一人寝ているだけであった。
男は唸りながら机の上の電話に手を伸ばし、受話器を上げ、
また電話機の上に下ろした。着信音は消えた。
彼は満足したのだろうか、再び眠りにつくがその安眠はすぐに着信音に妨げられた。
『あぃ。こちらレンブラント隊。何か御用で??』
『寝起きの悪さは相変わらずだな。』
その男は無愛想に応対するがその聞き覚えのある声に眼を覚ました。
『お前か・・・。何の用だ・・・?』
『手短に言おう。少し俺に協力してもらいたい。
ある傭兵がその基地に入っている。』
男は寝癖の付いた頭を掻きながら気だるそうに応対を続けた。
『それで、誰が入った?』
アスタロトはニヤリと笑って、答えた。
『ヘル・ガリバルディと呼ばれている傭兵だ。
そしてそいつを雇ったのは、お前の兄・・・ダーク・ハインドだ。』
『・・・!!ケヴィンが!?アイツは宇宙にいるはずだ・・・
一体何のために?』
『それは分からないが、とりあえずヘル・ガリバルディとその一味と接触して殺すのが俺の仕事なわけ。協力してくれるかな?シルバ・スミス・ハインド・・・。』
『・・・良いだろう。しかし基地では殺すな。後の処理が面倒だ・・・。』
『そう言ってくれると思ったよ。それじゃあ後の事は頼んだよ。シルバ。』
そう言うとアスタロトは一方的に電話を切る。
シルバは「傭兵風情が・・・。」と言って舌打ちをして、再び眠りに付いた。
(何を考えているんだ・・・。ケヴィン・・・。)
その頃、カーペンタリア基地にいるヘル達は愛機の修理のため、格納庫にいた。
ヘルはコンピュータに向かい設計図に眼を通す。そこにエドワウがトラックで入ってきた。
「ジンのパーツは生憎揃わなかったが、良いものが手に入った。
多少不具合があって使われなかったジャンク品だが、アンタなら問題ないだろう。」
ヘルはコンテナの中身をみて、感心した。
ジャンクパーツにしてはなかなか良品だったからだ。
「高機動型ジンのパーツですね。たしかに問題はありません、これなら2、3日で完成するでしょう。」
大きいため息をつくヘルを見て、エドワウは思いついたように口を開いた。
「疲れているようだな。ここは彼女に任せてちょっと外の空気でも吸って来いよ。」
「・・・?彼女?」
そうエドワウが言うと、トラックから一人の女の子が降りてきた。
「はじめまして、ディスク・バイオレットです。」
そう言うとディスクはニコッと笑って、ヘルと握手を交わす。
「ディスクもバルトフェルドに同調した一人だ。信用してくれ。
彼女は戦闘からメカニックなんでもできるからいろいろ任せてもらいたい。」
ヘルは感心してディスクの顔を見る。
視線に気づき再び笑う彼女の笑顔はやたらと輝いていた。
その笑顔に耐えれなくなり頭を掻いて(フケが・・・!)
「そうさせてもらいましょうかね・・・。」
と言いヘルは格納庫を後にした。
ヘルのIDカードがコンピュータの上に置いてあるのをエドワウは気づいた。
「・・・ありゃ。ヘルのヤツIDカード忘れてやがる。
届けてくるからディスクも休憩しとけよー!」
「はーい!」
カーペンタリアの基地はあわただしかった。
まるでこれから戦闘が始まるかのようだった。
「ヘルじゃないか!こんなところで何している?サボりか??」
遠くから誰かに呼ばれた。声の主はフェニクス・リッチーだ。
ジュースを片手に、ホットドックをほおばっている。
「あなたが言えた義理ですか・・・。
一人だけ豪遊して・・・。」
ぼやくようにヘルが言うと、リッチーはため息をついた。
「分かってないね、チミは。
戦争は俺達傭兵にとって祭りみたいなもんだぜ。
それを楽しまない奴はいないでしょ。」
「何を言ってるんですか。
死の商人じゃあるまいし。」
そう突っ込むヘルを意にも介さず、リッチーは歩いていく。
前を見ないで歩いていくリッチーの後ろにヘルには見覚えのある男が立っていた。
「久しぶりだな・・・。ヘル!!」
紫色の髪にワインレッドの悪趣味なスーツを着た男が立っている。
リッチーはその男のどす黒い雰囲気に圧倒されて、距離を置いた。
「貴方は・・・。アスタロト!?
なぜ貴方がこんなところに!!」
「雇われたんだよ。
お前らがよく知っている女にお前を殺すようにな。」
アスタロトがそう言うと、赤服のエドワウによく似た男と殺気に満ちた少年が歩いてきた。
ちょうどエドワウもIDカードをヘルに届けにきた。
「・・・シルバ?」
少年はヘルとリッチーの顔を見て叫んだ。
「見つけたぜテメェら!!
今日こそお前らの首持って帰らせてもらうぜ!!」
ツェップが銃を抜いた瞬間、赤服を着た男は銃を分解しツェップを投げ飛ばした。
「殺し合いは外でやれと言ったはずだ。
お前は連合兵士だろう??ここでは俺に従え。」
「黙れ!俺はコイツらに借りがあるんだ!!
今やらなくていつやるって言うんだ!?」
そう言ってリッチーに飛び掛ろうとしたツェップの前にアスタロトが立つ。
「ここで殺し合いをするつもりはないよ。
俺は挨拶しに来ただけさ。」
そう言ってアスタロトはヘルを見た。
その眼にはヘルに対する憎悪で満ちていた。
「何をするつもりですか?
僕は貴方と戦いたくはない。」
アスタロトの憎悪をやり過ごすようにヘルはそういったが、アスタロトには届くことはなかった。
「黙れ!お前は俺の過去を知っている。
お前を殺さなければ、俺は前に進むことはできない!!」
アスタロトは後ろを向き、更に一言言い放ち立ち去った。
――何かを得るには、相応のものを失なければならない・・・。
「分かっていますよ・・・。」
ヘルはそう呟き、格納庫へと戻ろうとした。
ツェップは去り際にリッチーを見た。
「次こそ逃がさねぇ!!
このツェップ様が必ず殺してやるよ!!」
そう叫ぶツェップに対して、リッチーは振り返った。
「面白いヤツだ!殺れるもんなら殺ってみな!!
生きて女王様のところに帰れるとは思うなよ!!」
そう言い返し、互いに逆方向へ歩いていく。
そして、エドワウとシルバだけが残った。
先に口を開いたのはシルバだった。
「・・・何を企んでいるのかは知らんが、あまり身勝手な真似はするな・・・。お前を殺すようなことはしたくない。」
「分かっているさ。俺もそんなことは御免だ。」
格納庫へ戻ったヘルは、ただの一言も発することなくモビルスーツの補修をしていた。
会話らしい会話は無く、ディスクに指示を出すときに喋るくらいであった。
そんなピリピリした空気を感じ、リッチーもつまらなさそうに設計図に眼を通している。
そこへエドワウが入ってきた。
「聞いてくれ、アークエンジェルとオーブの艦がL4に向かっていると言う情報が入っている。
それに、新造艦『エターナル』も一週間後に出撃する。」
それを聞いたヘルは、エドワウの持っていた設計図らしきものを受け取った。
「これが『エターナル』ですか・・・。
パッと見た感じ普通の戦艦ですね・・・。
しかし今頃新造艦を投入すると言うことは、何らかの
特殊な能力があるのでしょう。」
「ご名答。コイツにはフリーダムとジャスティスの
強化モジュールが付いている。
いわば二機のための艦というわけだ。」
リッチーはもう一つの設計図を見つけた。
エターナルに装備されているものの設計図らしい。
「M・E・T・E・O・R・・・。
ミーティアねぇ・・・。こんなもんあったら
使ってみてぇよ。」
そこへヒョコッとディスクが顔を出した。
「核動力ですか・・・。このタイプのモジュールは滅多に無いものですよ。
これにフリーダムやジャスティスがくっついたとしたら、
簡単に戦争は終わっちゃいますよ」
黙り込んでいたヘルはたどり着いた答えを口にした。
「やはりこの艦の艦長がアンドリュー・バルトフェルドってとこですかね。
しかし、ラクス・クラインは侮れませんね。
相手がバルトフェルドだったと言うこともあるでしょうが、
それを味方につけられるとは・・・。」
「上に立つヤツってのはそれなりの運も要るんだろうな。
だから俺達傭兵には『ツイてるヤツ』なんていないのかもな。」
皮肉っぽくリッチーは言葉を吐き捨てた。
その言葉にヘルは間違いないという感じで頷いた。
「まぁとりあえず宇宙へ発つのは5日後、シャトルのほうは任せてくれ。
アンタらは愛機の改修を早く終わらせてくれよ。」
「「ああ。」」
アスタロトと遭遇してからあっという間に5日が過ぎた。
ヘルとリッチーのジンは無事改修が終わり、後は宇宙に発つのみだ。
「よし、モビルスーツも積んだことだし、出発するとしよう!」
エドワウがそう言うと、力なく返事をする三人がいた。
徹夜でモビルスーツが完成したのだ。
三人はシャトルの座席に座りうなだれていた。
そこでヘルは眼を閉じ今までのこと、そしてこれからのことを考えていた。
アスタロトと連合の粛清部隊も追ってくるだろう。
バルトフェルドに付くのならザフトからも終われる立場になるのだろう。
このまま戦争は終わるのだろうか?
いつになったら自分は自由になるのだろう?
考えていてもキリが無い・・・。
とりあえずヘルは眠ることにした。
その答えに向かうようにシャトルは動き出す。
To be continued to…
≪PHASE-04へ続く≫
[あとがき]
どうも消です。
いよいよライバルみたいなのが出てきました。
謎の多い人間ばかりでてきて困ります。
次回から宇宙です。今回は戦闘がほぼゼロで、後半へのイントロダクションみたいな感じだったのでガンガン
戦わせてやりたいと思います。
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