PHASE-02 近づき、また遠ざかる

『まぁ、なんとか彼女のプレゼントを受け取らなくて済んだわけだが・・・。』

ジョシュアを無事脱出して少しした頃
右腕を失ったジンに乗っているフェニクス・リッチーは不満そうだった。

『ええ、何とか助かりましたね。足つき様様です。』

青いジンに乗っているヘル・ガリバルディは上機嫌に答えた。

『そうじゃねぇよ。何で・・・ザフトのモビルスーツがついてきてんだよっ!!?』

不満を爆発させたリッチーとそれを受け流すヘルのコクピットに、
ロックの警告音が鳴り響く。
二機のディンが二人に向けて発砲した。
ヘルとリッチーは難なくかわす。ディンはスピードを上げ、
ヘルに後続するリッチーに近づいてきた。
ヘルは少し考えてリッチーの不満に答えた。

『う〜ん。@僕らを連合の兵士と間違えてそれを落とし戦果をあげたい。
     A僕らなんて眼中には無く足つきを落としたい。
     B実は助けてほしい。
 のどれかなんでしょうけど・・・。確実にBはありませんね。』

『どっちにしろ性質が悪い』

そう言ってリッチーは左腕で腰にマウントしている、大型の剣を抜いた。
その形は剣というよりは、むしろ包丁に近い巨大な刃物であった。
リッチーはその刃物をチャッキー・ブレードと呼び、
任務ごとに手入れまでしているお気に入りの武器だ。

『今宵も俺の愛刀は血に飢えているぜ・・・!』

そう言うとリッチーのジンは急上昇し太陽の光で見えなくなった・・・
かと思った次の瞬間。猛スピードでジンは降下してきて、ディンを二機とも両断した。
リッチーが誇らしげに剣をしまいながら周りを見ると、ヘルはもういなくなっていた。

『こっちですよリッチー。静かに降りてきてくださいね。』

残念そうにため息をつきながら降りてくるリッチーは
ヘルのジンとアークエンジェルのちょうど間あたりに、
白銀のシグーがいることに気づいた。
リッチーはヘルのもとへ走り、状況を教えるため近づいたが
もうすでに遅かった。

「ヘル。まずいぜ。」

「シッ!今いい所なんですよ。」

「何がいい所なんだい?」

「あのモビルスーツは核を使っているそうなんです。
 これが連合の・・・ん?」

ヘルは声の主がリッチーでないことに始めて気がついた。
声の主の手には拳銃が握られている。
そしてヘルはしゃべるのを止めて両手を頭へやる。
袖口からスッとナイフを引き出した。
慣れた手つきだ。ヘルは仕事上よくこういった状況に陥りやすい。
ヘルはちらりとリッチーに視線を送る。リッチーも小さく頷いた。

「あれ?お前たちがまさか・・・?うわっっ!!?」

その男はヘルの顔を見て驚いたようだったが、
咄嗟に飛び掛られ銃の引き金も引けなかった。
抵抗しようとしても二対一敵うはずも無い。
あえなく取り押さえられてしまった。
リッチーはそれと同時に男の持っていた銃も奪い頭に押し付けた。
ヘルは男の首筋にナイフの刃を向けていた。

「言えっ!!どこから回されてきた!!?
 連合のあの女か?それともパトリック・ザラか!?」

「痛たたたた!!何のことだ!?
 俺を送り込んだのはアンドリュー・バルトフェルドだ!!
 わかるだろ??砂漠の虎だよ!!アンタたちを雇うんだとさ!!」

その話を聞いてヘルは不思議そうな顔をした。
しかし、リッチーは銃をさらに押し付けた。

「ほほ〜う!そのザフトの英雄さんが何で俺たちを雇いたいんだ??
 俺たちはザフトのブラックリストに入ってるはずだ!
 それを知ってるはずの奴が送り込んでくるのはおかしいだろう!?
 ザフトレッドのお前を!!」

男はさらに痛がり悲痛な声を上げた。
「信じてくれ!」という声と共にヘルは立ち上がった。
それと同時に青いジンのほうへ歩いていった。

「何やってるんだ?本気でコイツを信じるつもりか??」

「その人は敵じゃありませんよ。恐らく・・・。
 でも彼をを信じる前に、確かめたいことがあります。
 事務所へ戻りましょう。ところであなたのお名前は?」

男は立ち上がり、ほこりを払い、フッと笑った。

「俺の名前は・・・エドワウ・・・エドワウ・ディバッツだ。」

ヘルはジンに乗り込み「よろしく。エドワウ」と言い。
ジンを起動させた。

「付いてきてください。僕らの事務所へ案内します。」

そういうと青いジンはバーニアを噴かし飛び立った。
リッチーは不審そうにエドワウのシグーを見ながらあとにつづき、
エドワウもため息をつき、白銀のシグーで青と赤のジンについていった。


大西洋上、連合イージス艦にて。彼女はヘルたちの動きをキャッチしていた。

「ターゲット、再び移動を開始しました。」

「だ〜から言ったろ?あの時ササッと殺っちゃえば善かったんだよ!
 どーするんだい??中佐さんよ!?」

ソルートはフッと笑い。その冷たく鋭い眼でツェップを見た。
ツェップもその眼を見返した。ソルートは立ち上がり、
ツェップを格納庫へ連れて行った。その間一切会話は無かった。

「これは・・・?」

ストライクダガーにも似ているが、色や細かい部分が違う。
何より、増加装甲が着いているストライクダガーなんて無いはずだ。
ツェップはソルートの意図が読めずに、彼女のほうに目をやった。

「このモビルスーツはGAT−01Dロングダガーといいます。
 最大の特徴である増加装甲『フォルテストラ』により運動量は落ちるものの、
 火力、防御力の向上がもたらされます。
 まだ生産が始まったばかりですが、一機のみ融通を利かせてもらい配備しました。」

ツェップは感心しながらそのモビルスーツに近づいていき、
コクピットに入っていった。

「あなたにはその機体に乗ってもらいます。
 そして我々はパナマに一度入港した後、再び彼を追います。
 ヘル・ガリバルディは私達の・・・特別強襲MS部隊が殺します。」

ソルートはそういうとツェップの姿を見ながらフッと笑い出す。
ツェップはその冷たい眼にこめられた黒い期待に
同じような黒い笑みをこぼす。

『ソルート中佐。艦橋へお越しください。
ターゲットの移動が止まりました。』

「よろしい。」と一言返事をすると
ソルートは出口へと向かいながら、ツェップに話しかける。

「期待していますよ、ツェップ。
 あなたの力であの男を追い詰めて、殺してください。
 そうすればあなたの望むものが手に入ります。」

ツェップはその瞬間大きな叫びをあげた。

「ハハハハハハハ・・・・!!!
 殺してやるさ!!そのために俺は生まれたようなものだからな!!
 そうさ!俺たちの代わりにいい目を見ているアイツを殺して、
 俺は自由になってやる!!」

その笑い声と叫び声は怨みなのだろうか?
それとも彼の希望なのだろうか?格納庫にこだまし続けていた。


青と赤のジン、そして白銀のシグーは隠れるように島から島へと飛び、
たどり着いたのは未だ雪の残った肌寒い島だった。
ヘルはコクピットの操作パネルを開き、認証コードを打ち込む。
すると、建物の裏の地下からカタパルトが現れ、そこへ着地すると
エドワウにもモビルスーツを着陸させるように言った。

「まるで、秘密基地だな・・・。」

エドワウがそう呟くと、カタパルトは地下へと降りて行った。
エドワウはカタパルトが止まった次の瞬間、言葉を失った。
目の前に広がる光景は、戦艦や基地でよく目にするような格納庫であった。

「驚いたな・・・。ザフトの基地並みの技術力だ。
 まさしく秘密基地と言ったところだな・・・。」

そう感心していると、再びヘルから通信が入ってきた。

『降りてきてください。事務所へ案内します。』

エドワウはシグーから降りると、ヘルとリッチーのもとへ向かい
エレベーターに乗り込んだ。

「それにしても、こんな素晴らしい技術力をもっているなんて
情報には無かったな。アンタたちいったい何者だい?」

エドワウがそう尋ねるとリッチーはクッと笑い答えた。

「傭兵だよ。あの設備はヘルが四年かけて広げたものだ。」

「正確に言いますと協力者の手によるものなんですがね。」

ヘルが付け加えるように言うと、
エドワウは少し考え思いついたような顔をしてしゃべり出した。

「成る程。だからバルトフェルドはアンタ等を欲しがっているのかも知れない。」

そういうと、リッチーはまた分からないという様な顔をした。
エレベーターが止まるとヘルたちは部屋の中に入っていった。
とても暗い、ヘルが手探りで電気を点けると、えもいわれぬ光景が
エドワウの目の前に広がっていた。

「うわ・・・埃っぽいなぁ。
 すみません、少し待っていてくださいね。
 片付けますから・・・。リッチー手伝ってもらえません?」

そういうとリッチーはタバコを取り出し、火を点けながら嫌そうな顔をした。

「嫌だね。お前が散らかしたんだからテメェで片付けな。」

そういうと、エドワウを呼びエレベーターに乗っていった。
ヘルはガックリ肩を落とし、片づけを始めた。
エレベーターに乗り込み上へ向かっているのを見て
ふとエドワウに疑問が生まれた。

「あれは地上じゃなかったのかい?」

リッチーはエドワウを横目で見ながら答えた。

「あぁ?事務所は地下だ。地上の建物は店だよ。
 カムフラージュってヤツだな。」

そう言うとエレベーターを降りたリッチーは扉の『CLOSED』の札を裏返しにした。
棚やショーケースにはナイフや包丁、少数ではあるがスプーンやフォークも置いてあった。

「へぇ、金物屋みたいなものか。
 まぁこれなら地下にあんなものがあるとは思わないだろうな。
 ・・・ところでヘルの方はまだかかるのかい?」

エドワウがそう聞くと、リッチーはタバコの煙を吐き
カウンターのブランデーをグラスに注ぎながら答えた。

「あぁ・・・。今日中には終わらないだろうよ。」

「え・・・?」

事務所の片づけが終わり、ヘルが店に顔を出したのは丸一日後のことだった。

――二週間後。ヘルはパソコンに向かって、何やら様々な情報を入力している。
リッチーはもちろんタバコをふかし、ソファにやる気なさそうに座っている。
エドワウはヘルのパソコンを興味深そうにみている。
端末に映し出された情報に、ヘルの目は驚きの色に変わった。

「・・・!!
 成る程、侮れませんね。アンドリュー・バルトフェルドって男は・・・。」

エドワウとリッチーはドタバタとヘルのパソコンのモニターに集まった。
その顔を押しのけてヘルはさらにキーボードに入力を続けた。
その画面に映し出されたモビルスーツを見てリッチーは声を上げた。

「あ゛ーー!!!コイツはあのときいた白いヤツ!!」

ヘルは頷くと説明を始めた。

「このモビルスーツの名前はZGMF−X10A『フリーダム』
 動力にはなんと核を使っているようです。
 ちなみに今はザフトから奪われているようですね。」

そう言ってヘルはエドワウのほうをちらりと見た。
エドワウもヘルのほうを見た。

「そしてその強奪の手引きをしたのは、ラクス・クライン。
 そしてアンドリュー・バルトフェルドは死んだはずです。
 ですが何故かクライン派に傾倒しています。これはどういうことでしょう?」

ヘルのその問いにエドワウは黙り込んだ。
リッチーは、タバコを持った手でしばらく考え込んでから挙手した。

「はい!そのラクス・クラインが水面下で動き、
何らかの動きをしていて、
それに生きていたバルトフェルドが同調したものと思います。」

ヘルはコクコクと頷き、エドワウの表情を伺った。
エドワウは黙り込んだままであった。
ヘルはニコッと笑い、口を開いた。

「そうですね、普通に考えたらそういう答えになりますよね。
では答えはどうなんでしょう?エドワウ先生、真相をお願いします。」

エドワウは未だ黙り込んだままであった。
そして、フゥッとため息をつき、ソファへ座った。

「俺にもよく判らないんだ。掴みどころの無い人だからなあの人も・・・。
 おそらく何かのつながりで、クライン派と繋がることができたのだろう・・・。
 今は、従軍していてもいずれは決起してザフトを抜けるつもりだ。
 しかし問題点があるんだ。」

「それは、今戦力が無さ過ぎること。」

ヘルは答えを見抜いたかのようにそうつぶやいた。
エドワウは驚いたような顔をした。

「知っていたのか?」

そうエドワウが尋ねると、ヘルは首を横に振りエドワウのほうに向いて、
ボリボリと頭を掻きながら(フケが・・・!)答えた。

「今の話とバルトフェルドが君を僕たちに送り込んだことで容易に推測できます。
 ザフトでもそれなりに人望がある彼でしたら、
鶴の一声で付いてくる兵士もいるでしょう。ですがそれはできなかったんです。
なぜなら彼は死んでいることになっていますからね。
クライン派にも同じことが言えます。今現在の情勢を鑑みて、
パトリック・ザラの考えがプラントを支えているようなものですからね。」

リッチーはその話を聞いて、閃いた様な顔をして口を開いた。

「要するにお前は、動けない人間に代わって
戦力になりそうなヤツをスカウトしに来てるわけだな。」

「そういう事になるな。
まぁアンタ達は傭兵だから雇うという形式で、
ってあの人は言っていたけどな。」

リッチーはヘルを呼び出した。
仕事の会議が突然始まるのが彼らなのだ。

((どーするよ。ヘル?
 ちょっと割に合わない気がするのは俺だけか?))

ヘルは苦笑いで頭を掻きながら(フケが・・・!)答えた。

((正直僕もちょっとそう思います。
 でも、彼女の仕事よりかは命の保障はされていますし、
 何より報酬は結構なものだと思いますよ?))

((たしかに・・・。あの女、俺達にタダ働きさせやがったしな。))

((フリーダムが味方ってのも心強いし、どっち道連合には追われる身なんですよ。))

「・・・よし、決定。いつもの頼むわ。」

そうリッチーが言うと、ヘルはエドワウに近づきニコッと笑った。
いつもの営業スマイルだ。リッチーはそれに耐えようと懸命に笑いを堪えていた。

「商談成立です。あなた方の依頼を請け負いましょう。」

エドワウはニッと笑い、立ち上がった。

「ありがとう。で、早速行動なんだけど。
三日後くらいにオーブに行ってもらえないかな?
そこでアークエンジェルのサポートをしてもらいたい。」

そう言ってエドワウは次の人材を探すためジブラルタルへ向かう事を告げ、
エレベーターに乗り込み更に地下の格納庫に行った。
シグーに乗り込みOSを起動させると、レーダーをチラッと見た。

「おいおい・・・。何で外に『6機』いるんだ・・・!?」

リッチーは地上の店でタバコをふかしている。
扉の開く音を聞くと「いらっしゃい」とぶっきらぼうに言った。
その客は黒服でまるでマフィアのような出で立ちだった。

「ここには、銃の弾は置いてないのかね?」

リッチーは呆れた様な顔をして、答えた。

「ここは金物しか置いてないぜ、看板見て他当たるんだな。」

「ならば私が置いて行こう。」「何!?」

そう言うと男はリッチーのわき腹をめがけ、発砲した。
倒れたリッチーは動かなかった。
死んだかどうかを確認するため男が近寄った瞬間。
血しぶきがカウンターに飛び散った。

「バーカ。油断しすぎだ・・・!!?」

リッチーが立ち上がると服には穴が開いていた。そこからチラリとナイフの柄が見える。
外をみると目の前には連合のモビルスーツが立っていた。
次の瞬間にはライフルを撃たれる。そうリッチーがそう思った瞬間、
カウンターの自分の立っている部分だけ抜け、
モビルスーツはいつの間にかジンに変わっていた。

「あれ?生きてる。」

「ギリギリでした。店も改造しておいてよかったですね。」

ヘルはニコリと笑いながら、リッチーの前に立っていた。
リッチーは一瞬状況が把握できなかったが、すぐに我に返った。

「おい!あの女がプレゼントもって来たぜ!」

ヘルはジンに乗り込みながら大きな声でリッチーに答えた。

「ええ。律儀な人ですね。
 ビーム兵器持っているみたいですよ?」

リッチーもため息をつきながらジンに乗り込んだ。
自分が生きていることが何よりも不思議で仕方が無かったのだ。
エドワウはシグーに乗り込んだまま、状況を伝えたようだ。

「お前なかなかやるなぁ!!
 借りにしておいてやるよ!!」

エドワウは苦笑いで答えた。

「そりゃどーも。
 しかしアンタ、達粛清部隊に追い回されるなんて、ツイてないなぁ。」

リッチーは鼻で笑い上昇するカタパルトで一言ぼやいた。

「生まれてこの方、ツイてるなんて思ったことねぇな。」

地上にはストライクダガー5機と増加装甲の付いたストライクダガーに似ているモビルスーツ1機が降り立った。更に上空には戦艦が浮かんでいた。
それはアークエンジェルによく似た小型艦だった。
そしてリッチーの店は跡形もなくなっていた。
ツェップは赤いジンと白銀のシグーの2機しかいないことを見て、
大声を上げた。

『あぁ〜?なんだそのギンギラギンのヤツは!?
 青いジンはどこだ!!?お前らみてぇな雑魚には用はねぇんだよ!!
 とっとと帰ってミルクでも飲んでやがれ!!!』

増加装甲の付いたモビルスーツから罵声が聞こえた。
エドワウはその装甲に見覚えがあった。

『リッチー。気をつけろ・・・。あれは“アサルトシュラウド”だ!!』

『あぁ?“アサルトシュラウド”だぁ?
 そんなもん付いてたって知ったことか!!
 つーか、テメェこそすっこんで、
お気に入りの毛布にでも包まってりゃいいんだよ!!!
俺はお空のお姫様に用があるんだよ!!』

リッチーの言葉の反撃にツェップは怒りをあらわにした。

『キサマァ〜!!このツェップ様にそんな口聞いていいと思ってんのか!?
 切り刻むぞゴルァ!!』

『おぉ!上等だ!!やれるもんならやって見ろやぁ!!』

その場にいた、連合の兵士もエドワウもその通信を聞きながら、
子供の喧嘩を思い浮かべていた。
この先の展開は大体読めている。取っ組み合いか殴りあいになるのだ。
まず連合のモビルスーツから斬りかかっていった。
それに反応して、リッチーも『チャッキー・ブレード』でツェップの一撃を受けていた。
それを見て、ツェップはニヤリと笑った。

『へぇ〜!ジンのクセしてやるじゃねぇか!!
 先ずはコイツを殺ってから、ヘル・ガリバルディを戴くとするかぁ!!』

リッチーは鍔迫り合いをしているツェップのロングダガーの腹部に向かって蹴りを入れた。
不意をつかれたロングダガーはしりもちをついた。

『ケッ!誰がテメェなんかに殺られるかよ!!
 どうせお前はヘルにかなわねぇし、
 その上俺に殺されるのがオチだ!!』

『なぁ〜にぃ〜!?そんなに自信があるなら見せてもらおうじゃねぇか!
 かかってこいや!!』

そういって立ち上がった瞬間、ツェップの目の前にキャットゥスが飛んできた。
咄嗟の反応で、ツェップはそれを避け、怒りをあらわにした。

『!!・・・テメェ!何様のつもりだ!?そんな物で俺を殺すつもりだったのか!!?』

そう言って再びリッチーのジンに斬りかかっていった瞬間。
一機のストライクダガーが大破した。
海の中からヘルのジンが飛び出てきていたのだ。
ヘルは脚に装備してあるミサイルと手に持ったバズーカを掃射した。
リッチーのジンとエドワウのシグーは、空に飛び上がり巻き込まれないように
避難していた。

『相変わらず、見事に決まるねぇ。ファーストアタックは・・・。』

リッチーとヘルは、数的不利の場合いつもこの攻撃を最初に仕掛ける。
土煙の巻き上がった島にリッチーとエドワウは降りた。
完全に視界不良で敵味方の区別も不可能に近くなっていた。

『ヘル、そっちの様子はどうだ・・・?』

そうリッチーが尋ねると、ヘルは目を細めて辺りの様子をうかがった。

『・・・大方潰したとは思いますが・・・。
 気をつけてください・・・。地上でやるのは初めてだったので・・・。
しかも彼はまだ落ちてはいないようです。』

ヘルが答えた瞬間。ヘルとリッチー、エドワウのそれぞれに向かって
数発のビームが飛び交った。
完全に不意を着かれたリッチーは、その狙いを無視した攻撃に
ジンの左の手足を破壊され、その場に倒れこんだ。
エドワウはうまくシグーの盾を利用し、避けることに成功した。
そしてヘルはうまく交わすも、左腕に被弾し岩陰に隠れた。

『ハ!やっぱその程度だと思ったぜ、
土煙で敵を見失うなんて間抜けすぎるぜ!!』

消えていく土煙の中からツェップのロングダガーが姿を現す。
彼は味方のストライクダガーを盾にして、ファーストアタックを凌いだのだ。
そして一機残ったストライクダガーも味方を盾にしていた。
エドワウはその光景を見て驚愕した。

『な・・・どういう奴等だよ・・・。
 味方を平気で犠牲にするなんて・・・!!』

ツェップは中破したリッチーのジンに近づきながらニヤリと笑った。

『甘ぇなぁ・・・。甘納豆よりも甘ぇ・・・。
 勝つためには犠牲は付きものだろーが!!
 こいつらは俺達の勝利のための尊い犠牲になったんだよ!!』

エドワウはその言葉を聞いた瞬間、とてつもない怒りを露わにした。

『何が尊い犠牲だ!!そんなもの生き残ったヤツの勝手な思い込みじゃあないか!!
 そんな考えだからお前達連合も、ザフトも身勝手な殺し合いをするんだ!!』

そう叫びツェップのロングダガーにエドワウは飛び掛り、
蹴り込むがロングダガーはビクともせず逆に手に持っていたストライクダガーごと
エドワウのシグーを地に叩きつけ、更に銃を頭に突きつけた。
ヘルはその状況を見て、飛び出そうとするもストライクダガーのビームに阻まれ、
右腕と頭部を失い、再び岩陰に隠れざるを得なくなってしまった。
短期間の酷使に耐えられず、ヘルの青いジンは右半身の機能を停止してしまった。
ツェップは操縦桿のトリガーに指をかけニヤリと笑った。

『身勝手かどうかは生き残ったヤツが決めるんだよ!!
 まぁ、お前はここで死ぬがな・・・!!』

そう言って、エドワウへ凶弾を放とうとした瞬間。
ツェップのビームライフルは青いジンの脚と共に破壊された。

『な・・・!!今のは・・・!!』

そう言いながら、ヘルのジンを見ると右脚が切り取られていた。
ヘルに攻撃を仕掛けていたストライクダガーのコクピット部分に、
重斬刀が深く突き立てられていた。
ジンのかろうじて機能している左半身で総攻撃をかけたのだった。

『チィッッ!!コイツだけでも殺しておかねぇと・・・!!
 後でくだらねぇことになりかねねぇ!!』

そういってツェップはビームサーベルを抜くが、
再び強い衝撃に襲われ、倒れてしまった。

『ぐぅっ!?今度は何だ!!?』

リッチーの赤いジンが、タックルを仕掛けたのだった。
ジンは片足で立てずにロングダガーの脇に倒れた。
それを見てツェップは怒りに満ちた声を発した。

『またテメェかぁ!!!どうやら先に死にたいようだな!!』

その言葉を聞いたリッチーはフッと笑いバーニアを吹かし始めた。

『こんな事じゃあ俺の翼は折れねぇよ!!』

ツェップは斬りかかるが、リッチーはすぐさまバーニアを切り、その太刀筋を避けた。

『何ッ!!?逆噴射させたのか!!』

その瞬間にツェップの正面から重力がかかった。
ジンの右脚が胴体に直撃していた。しかし、ツェップは堪える。
さらにジンはバーニアを吹かし、装甲を着けていない頭部へ向けて
右の拳を繰り出した。
その猛攻をツェップは避けようとするも、
ロングダガーの左半分の顔面を潰されてしまった。
その瞬間ツェップの様子が変わった。

『・・・!!グッッ・・・!?ま・・・さか??
 チクショォォォォォ!!“時間切れ”か!!』

ツェップは突然苦しみだし、もがきだす。
その場にいた三人は、突然のことに驚き、その様子を見ているしかなかった。
ツェップは震える手で操縦桿の脇のボタンを押す。
装甲が勢いよく飛び散った瞬間、強い閃光が放たれた。
上空にいた戦艦からアンカーが発射されツェップの乗るロングダガーを引き揚げた。
光が消え、三人の視力が回復したときには連合の戦艦も、ロングダガーも姿を消していた。
動かなくなった青いジンから、ヘルが降りてきた。

「さすが『フェニクス』・リッチーですね。無事でなによりです。」

そう言うと、リッチーとエドワウもハッチを開け
損傷だらけのモビルスーツから降りてきた。
リッチーは自分達の惨状を見て、呟いた。

「無事・・・ねぇ・・・。」


連合の小型戦艦『ウリエル』に引き揚げられたツェップはまだ、苦しんでいた。
取り押さえようとする連合兵士や、医者を殴り倒し叫び続けていた。

「ハァッ!ハァァッ!!くそぉぉぉぉっっ!!あの赤い野郎ぉぉぉ!
 許さねぇ!!薬をよこせ!!!ヘル・ガリバルディごと殺してやる!!!」

そう言って医者に馬乗りになり、薬を奪おうとした瞬間。
ソルートはツェップを抱きしめ、麻酔銃を彼に撃ちぬいた。

「やっぱアンタ・・・・・・母さん・・・。」

ツェップは体をダラリとさせ意識を失った。

「他のものは作業を再開してください。医療班で動ける者は彼を運びなさい。
 ここで使い物にならなくしたらアズラエルに合わせる顔がありませんからね。」

そういって、艦橋に戻り艦長席に座ってしばらくすると格納庫から通信が入った。

『艦長。彼が到着いたしました。いかがいたしますか?』

「・・・わかりました。艦橋へ案内してください。」

そう言って、通信を切るとソルートはニッと笑った。
そしてモニターでヘルたちの様子を確認すると勝ち誇ったように呟いた。

「さぁ、今回は何とか生き延びたようですが、
次に遭うときは生き延びることができるでしょうか。
満身創痍の貴方達に襲い掛かるのはツェップだけではありません。
・・・あなたと同じく闇の世界屈指の傭兵が貴方達に牙を向くでしょう。
もう逃げることはできませんよ。
次こそは死んでもらいます。ヘル・ガリバルディ・・・。」


ヘルたちは再び、地下にある格納庫にいた。
ヘルの店は跡形もなく消え、せっかく片付けた事務所も
ほとんど使い物にならなくなってしまった。

「さて、これからどうするんだい?俺達のモビルスーツはほぼ、大破だぜ?」

リッチーがそう言うと、エドワウが修理していたモビルスーツのコクピットの中から
顔を出しある提案した。

「ここからザフトのカーペンタリア基地へ向かおうと思う。
 オーブへの作戦は無しだ。それにもう決起は近いうちに起きるはずだ。
 今のうちにプラントに戻る必要がある。」

「おいおい!俺達はどうなるんだよ?
俺達は軍人じゃないからつまみ出されるんじゃないのか?」

そうリッチーが反論すると、ヘルは頭を掻きながら(フケが・・・)答えた。

「彼にも考えがあるはずです。
 簡単に言うと僕らはザフト軍人のエドワウに雇われた傭兵って事ですよね??」

エドワウはコクリと頷き話を続けた。

「そういう事だ。さらにモビルスーツの修理もそこでさせてもらうことができるから
一石二鳥というわけだ。」

「なるほど。じゃあ決まりです。僕達の次の目標はカーペンタリア基地です。
そこからプラントへ向かい、アンドリュー・バルトフェルド等の決起を支援します。」

ヘルがそう言うとリッチーは「おう。」と返事をした。
しかし、ヘルたちが生き延びるために歩く道に立ちはだかる障害は
更に大きくなろうとしている。
そのことをヘルたちが実感するのに時間はかからないだろう。
だが、前に進む以外に道は無い。
ヘルたちが行き着く先に見るのは何なのだろう?

To be continued to…



≪PHASE-03へ続く≫


[あとがき]

消です。
第二作目を投稿させていただきました。

作ってみて登場人物の性格がみんな悪くなっていて

少しへこんでいます・・・。

でも戦争ってこんなものなんでしょうか。