PHASE-01 利用するもの されるもの
――僕は傭兵だ。
どこで何するのもどんな仕事を請けるのも
何を信じるも何を討つも
僕の勝手だ。
僕の存在は誰のものでもなく
生き方は僕が決める。
たとえこの命が造られたものでも――
「ああ、いたいた。こんなところで何をやっておられるのですか?
隊長が呼んでいますよ?」
呼ばれた男の名前はヘル・ガリバルディ。連合の兵士はその風貌に驚いていた。
ボサボサの天然パーマ、やる気の無い眼、さらにその眼の下にはクマがある。
彼が頭を掻くとフケが・・・。
「わかりました。すぐに行きましょう。」
そう言葉を発するとチラリと相棒であるフェニクス・リッチーに視線を送る。
リッチーはそっけない表情で「しゃーねぇなぁー」と点けたばかりのタバコの火を灰皿にもみ消しながら立ち上がり指令室へと歩きだした。
部屋へリッチーに続きヘルが入った途端、その風貌を見てその空間が疑いの視線を
ヘルへ送った。
(本当にこんなヤツが一流の傭兵なのか・・・?)
誰もが眼を疑う。しかし一人だけ動じずじっとヘルを見ていた。
女兵士である。しかし、リッチーはその兵士の冷たく鋭い眼を見て息を呑んだ。
(この女・・・なんて冷てぇ目しやがる・・・!?)
その女兵士が口を開いた刹那、リッチーは不覚にもたじろいだ。
「はじめまして。私の名はソルート・ソロモン中佐です。
この特別強襲部隊の隊長を務めています。」
ソルートが出した右手をヘルはたじろぐことも無く、にこりと笑い彼女の手を握り挨
拶を交わした。
「僕はヘル・ガリバルディです。あれはフェニクス・リッチー。
このたびは僕たちへの仕事の依頼ありがとうございます。」
リッチーはヘルのこのサラリーマンの営業的な挨拶をいつも聞いているが、どうも慣れず
に吹き出してしまう。今回もやはり笑ってしまった。そしてこの挨拶にソルートが笑わずにいられるかどうか確認したが、無駄な労力に終わった。
「今回の依頼内容の説明をお願いできますか?」
ヘルが椅子に座りそういうと、ソルートは「よろしい」と言いモニターに映像を表示
した。そこにはジョシュアの見取り図が映し出された。
「極秘情報であるが降下してきた敵は、各ゲートを狙ってくる。
しかしゲートなどくれてやっても我々には全く問題は無い。
ゲートの先には敵を一網打尽にできるトラップが仕掛けてあるのだからな。
あなた達には南ゲートからそこまで敵を誘導してもらいたい。」
ヘルはその画面を見てポツリと一言いった。
「そちらのバックアップは無しですか??
僕ら二機だけというのも心許ないでしょう?」
ヘルのつぶやきにソルートは声を高くして笑った。
リッチーはもとよりヘルも、その部屋にいた連合兵士全員が驚いた。
「ははは・・・そうでしたね。
いくら天才と呼ばれていた貴方と『不死身』のフェニクス・リッチー殿でも
ザフトの大軍には及びませぬな。
然らば我々の部隊から一個小隊をお貸ししましょう。」
ヘルはその言葉を聞いて再びニコリと笑い、椅子から立ち上がった。
「それだけのバックアップがあれば誘導には十分です。
作戦が無事成功することをお互い祈りましょう。
ところで、極秘情報を我々に明かしてもよろしいのですか?」
「かまわぬよ。私たちは貴方がたを信用しておりますから。」
そうソルートが言うとヘルは「そうですか」とニコリと笑い
リッチーと共に部屋を後にした。
連合兵士だけになり静まり返った部屋に大声が響き渡る。
「て言うかよー!!今ので殺しちゃえば早かったんじゃねぇ!!?
そう少年が言うと、ソルートはその少年を冷たい眼で見た。
「口を慎みなさいツェップ。確かに彼はすぐにでも殺せたでしょう。
しかし、彼も私たちの意図に気づいているでしょう。
私は試してみたいのですよ。彼の実力を・・・。
追い詰められてどこまで足掻けるかをね・・・。」
ソルートのその言葉にツェップと呼ばれた少年は
ため息をつき、椅子から立ち上がり扉へ向かった。
「はっ、な〜にが足掻けるか・・・だよ!
結局は殺しちまうんだろ?
あんたを母親代わりに思ってるけど、やっぱりえげつねぇよ。」
ツェップは扉を強く閉め部屋から出て行った。
残った連合兵士も忙しそうに部屋から出たり、作業を始めたりしている。
その中でソルートはフッと笑いつぶやいた。
「そう、彼には死んでもらいますよ。
連合の未来のために・・・。」
同じころヘルとリッチーは休憩室に向かう廊下を歩いていた。
「なぁヘル・・・。
あんな増援じゃあ毛の生えた程度だろう?
どうしてこの仕事引き受けた?」
リッチーがそう尋ねると、休憩所の扉を開けたヘルはタバコを取り出し火を点け
煙を吐き出し話し始めた。
「正直僕はあまりこの仕事やりたくありませんでした。」
リッチーが「じゃあなんで?」と言おうとしたのをヘルは止め、話を続ける。
「もう連合は完全にブルーコスモスに支配されていると言っても良いくらいです。
連合の中にコーディネーターはいられない状態です。
もう何人か殺されていてもおかしくないでしょう。
そして、僕の存在も完全に連合にバレているようなんです・・・。」
リッチーは少し考え、閃いたように口を開いた。
「確かに、お前も俺もコーディネーターだしな・・・。
特にお前は元連合のコーディネーター。
お前の経歴がバレていなければ粛清部隊が出てくるはずも無いし
お前のことを天才とも呼ばない。」
ヘルはリッチーの見解に頷き、また話を続ける。
「情報屋のルキーニから得た話ですけど、
この基地、もう本部としては活動してないようなんです。
さらに、今回の攻撃目標はパナマではなく、ここジョシュアなんですよ。」
「・・・!!
おかしくないか!?
どうしてジョシュアが攻撃目標ってクライアントは知っているんだ?」
ヘルはボサボサ頭を掻き(フケが・・・!!)ニコッと笑った。
「極秘情報といっていたじゃないですか。
連合にはもうここを攻撃することは筒抜けなのです。
それに僕らがその情報を得ていることは承知済みというわけでしょう。
おそらく彼女の考えはこうです。
ザフト軍との戦闘で少数対複数の僕らを戦死させる。
それでも僕らが死ななかった場合、彼女の言う
『トラップ』にザフトごと僕らを嵌めて殺す――といったところですかね・・・?」
リッチーはタバコを吸いながら、その話に聞き入っていた。
しかし、煙を吐き出すと同時に疑問がわいてきた。
「その『トラップ』ってなんだ?
俺たちとザフトを嵌め殺せる代物なんてあったか??
それに何で殺すつもりならバックアップなんてつける必要がある??」
ヘルはくわえていたタバコの灰を落としながら、
リッチーの質問に答えた。
「ん〜やっぱり『サイクロプス』しかないでしょう。
あれなら十数キロは何もなくなりますからね。
それに、彼女にとって自分の敵も味方も
任務を遂行するための『駒』に過ぎないのでしょう。」
リッチーはタバコの火を消しながら、ため息をついて呟いた。
「やっぱり、ヒデェ女だな。ありゃあ。」
そう言って苦笑いすると、ヘルも「まったくです。」と
タバコの火を消しながら、そういって苦笑いした。
リッチーが部屋から出ようとしたとき、何かを思い出したかのように
振り向いて、再びヘルに質問を投げかけた。
「なぁ。今回の戦闘で俺たちを殺りそびれたら
あの女どうするのかなぁ・・・?」
ヘルは頭をボリボリ掻きながら(フケが・・・!)少し考え答えた。
「そりゃあ、地獄の果てまで追い続けるでしょうね。」
リッチーはその答えをばつが悪そうに聞きヘルにさらに質問をした。
「あの女、何座かなぁ・・・?」
「さそり座でしょう。」
ヘルは笑いながら即答した。
その答えを聞いてリッチーは「ちげぇねえ」と答え、休憩室を出た。
ヘルもタバコの火を消し、リッチーの後を着いていった。
三日後・・・。情報通り、ザフト軍はジョシュアに攻め込んできた。
ヘルとリッチーの陽動チームは、端から見ればソルートの依頼通りに
仕事をこなしているよう見えた。しかしもうヘルとリッチーしか残っていない。
(そろそろ頃合ですかね・・・。)
そう思ったその時、ヘルの乗る青塗りのジンに国際救難チャンネルの通信が入ってきた。
その声の主はまだ少年のようであった。
『おい・・・。ヘル・・・あの白いのは何だ・・・?』
リッチーがそう尋ねると同時に、その白いモビルスーツは全ての砲を展開し、
一帯のモビルスーツに向けて放ってきた。
一発一発が正確でかつ、胴を外していた。
次々と再起不能になるモビルスーツ。
そしてロックの警告音がヘルとリッチーのジンのコクピットに鳴り響いた。
『リッチー、避けられますね?』
『当然!!ここでやられたらあの女にお礼できないからなぁ!!』
猛スピードで向かってくるビームの嵐をヘルとリッチーはかわしていく。
しかし第二波がすぐさま自分たちに向かってくる。
ヘルは操縦桿を引き全ての攻撃をかわしていく。
『ぬおぉ!!』
リッチーの叫び声が聞こえた。
『大丈夫ですか!?動けます?』
『あぁ。右腕をやられただけだ!
脚は大丈夫だ!!』
ヘルはモニターで周囲を確認する。
ザフト軍のモビルスーツは撤退を始めている。
自分たちも撤退しなくては・・・。
そう思った矢先、あるものをヘルは眼にした。
「あれは・・・。足つき・・・?」
何故連合の戦艦がこんなところに?
それにあの方向にあるものは・・・?
何かを思いついたヘルはバーニアを点火させ飛び立つ。
『リッチー。着いてきてください。』
『何だ?脱出しないと俺たちは破裂しちまうぞ!?』
『脱出がてら見てみたいものがあるんです!
もしかしたら戦争が終わるかもしれませんよ?』
リッチーはよく解らないという顔をしながら、ヘルのジンに着いていった。
彼らの真後ろでジョシュアは轟音と共に大爆発を起こし、
何も残らない廃墟と化した。
To be continued to…
≪PHASE-02へ続く≫
[あとがき]
消です。
第二作目を投稿させていただきました。
作ってみて登場人物の性格がみんな悪くなっていて
少しへこんでいます・・・。
でも戦争ってこんなものなんでしょうか。
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