同じ位置から見下ろす同じ光景。
肉眼で捉えているか、巨人の眼を解してみているかの違いなど些細なものでしかない。

昨夜見た映像をそのまま繰り返し再生しているかのように、目標は其処にある。

違うのは空。
月の無い夜はヴァージュを隠し、敵の光をより一層映えさせる。

吹き抜ける穏やかな風。
夜行性の小動物。

その全てが動きを止めるように――。
ヴァージュと敵とを結ぶ空間のみが、切り取られたように――。

静かに。
静かに。


――私の世界に、ようこそ――


凶つ夜に惨劇の幕は上がる。





PHASE-03  Verge 〜境界〜





姿勢は低く、長い銃身を構える。


ガンサイトに納めるは、哨戒任務を律儀にも全うしている敵のダガー。

右足。 左足。 右足。
一定のリズムでダガーは歩を進める。

弾丸軌道演算。
導き出されたポイントに銃身を向ける。

同時に、腰から生え出るかのような独特のテールスタビライザーから展開された補助アームが、地面に突き立てられ、機体を完全固定する。
2本の足と一本の尾で固定された機体は微動だにせず、構えられた銃身が揺らぐことは無い。

必中の構え。
あとはタイミングだけ。

呼吸が止まり、世界がゆっくりと流れる。

右足。 左足。 右足。 左足。
右足。 左足。 右足。 ひだ・・・、今。


銃口から貫通体が飛び出していく。
正確無比にして残虐なる特大口径の銃弾が大気を切り裂き飛翔する。

瞬きする間もなく、弾丸はダガーの両膝を貫く。
僅かなタイムラグの後、ダガーが、足を失くした事を思い出したかのように前のめりに倒れ、さらに遅れて全ての音が伝わってくる。

それは、まるでダガーのほうから銃弾に「当たりに行った」かのように見えるほどの計算されつくした弾道。

10m以上の高さから、地に伏せたモビルスーツのパイロットは、激しい衝撃によって良くて失神、悪ければ死に至っているだろう。


「さぁ、湧いてこい。 蛆のように」


仲間の機体が謎の攻撃によって中破させられたのだ。
機体と地面が激突する大音響で、そろそろマヌケも動き出すだろう。

こちらの位置特定まで、恐らくあと三射。
それまでに中破した機体に集まる、それこそ蛆のような機械人形を破壊する。

一射。
倒れ伏せる足無しのダガーに慌てて駆け寄ったもう一機の見張りのモビルスーツの胸部を貫く。
ほとんど揺れない上半身を狙うなど、先制の一射に比べたら温過ぎる。

二射。
銃身を動かし、格納庫から出てこようという一機に標準をあわせ、トリガーを引く。 撃破。

三射。
狙撃銃を放棄する。 ただし、一番大きい照明に狙いを定め、時限式自動発射モードをセットしてからだ。

背後にかすかな発射音を残し、ヴァージュは消えるように行動を開始する。





照明を狙った砲撃で居場所を突き止めた基地内のモビルスーツは、それぞれ手持ちの銃で転送されてきた情報どおりのポイントを狙い撃つ。

暗闇に映る、赤。 紅。 朱。

あたかも、自分の位置を知らせるかのように吐き出される銃弾と光線。
着弾点の山肌が燃え、禿げてしまうほどの弾雨は止み、爆煙が晴れるのを待つように斉射が止む。

その間も、更なる狙撃は無い。
恐らくは、撃破したか、逃げられたか。
一応の害悪は取り除いたと、基地に安心感が漂う。

『やったか!?』

『待て! 今、ヘリを飛ばし確認する』

『この攻撃で逃げられる奴など』

『殺られたのは誰だ!? 救護班はや・・・ガガガ』

錯綜する電波に紛れ込む砂嵐の雑音と共に、ダガーの首が跳ね上げられた。




サーチライトや警戒網が狙撃ポイントに集中したため、潜り込むのは非常に容易い作業だった。

――地に還れ――

ここからは、殺戮の時間。 破壊の時間。

鮮やかな反りを持つ黒い刀『一の睦月』と『二の如月』を抜き放ち、背後から最寄の敵の首をニ刀一閃の元に跳ね上げ、二刀による刺突で胸部を貫き地面に縫いとめる。

地面に貼り付けられた頭の無い機体は、ギロチンにかけられた罪人の最後のように手足を動かす。 まるで痙攣しているかのようだ。
敵の胸部から、剣を引き抜く動作で隙を作る愚を犯さず、そのまま刀を手放す。  回収は後。

次なる目標を定め、腰の鞘から『五の皐月』『六の水無月』『七の文月』『八の葉月』と呼称する、短く細い直剣を片手に二本ずつ、指に挟むように持ち、投擲。

柄に埋め込まれたセンサーが敵を捉え、柄尻に搭載された噴出孔からのジェット噴射によってミサイルの如き超加速。
4本の牙が敵の一番熱を持つ部分、つまりバッテリーやコンデンサという致命的な急所に深々と突き刺さりに。二機が同時に動きを止める。

すでに3機が倒れ、漸く残りの1機が、異常に気づき始めた。

有無を言わず、其処と思われる位置に銃口を向け標準。 発砲。
だが、そこにヴァージュはいない。
『三の弥生』『四の卯月』の2本の直剣を腰から抜き放ったヴァージュは、テールスタビライザーの内部に隠された緊急ブースターで高速飛翔。

天頂という死角から舞い降り、重力という味方と共に振り下ろされる剣先。
頭頂部から股間までを一気に奔りぬけた2つの雷光は、パイロットごとダガーを引き裂き、地面と激突し静止する。

最後に、最初の狙撃によって足を吹き飛ばされたダガーのコックピットに墓標を立てるように『弥生』の剣先を浅く差し込み、引き抜く。

糸を引くような赤が黒の戦場に零れていった。


高脅威目標殲滅完了。
静かなる嵐が駆け抜けた地球軍の基地は、悪夢の残り香だけが残る。

動くものは無く、暗闇が何事も無かったかのように無音を取り戻す。
打倒されたモビルスーツに爆発は起こらず、人型を辛うじて保った屍骸のように転がっている。

『あああ・・・・・・、ああああああああああああああああああああッ!!!』

その時。
外部集音機ではなく、一方的な通信によってコックピットに直接響く若い声が、絶望に駆られた絶叫を上げる。

一つの人型。
強引な出撃によって安物の天井が剥ぎ取られた格納庫から、惨劇に遅参したように灰色の機体がせり出して来た。 
天蓋のない格納庫には存在しなかった。 恐らく、その地下にでも、もう一つのドックがあったのだろう。

愚かな。
凄絶なる死の舞台に上がらず、膝を抱え泣いていれば、一命を守り通せたかもしれないというのに。

戦場に優しさはない。
最後の一機に死を与えるべく、ヴァージュは死を司る神の眼光を宿し、ゆっくりと歩を進める。 

――さぁ、死を授けよう――

禍々しく揺らめく黒い刀身に獲物の姿が映し出された。



≪PHASE-04へ続く≫


[あとがき]

似非ミリタリーからチャンバラ大戦の戦闘パートでした。 あ、次回も続きますよ〜。

ワンサイドゲームを書くとスカッとしますね。
主人公ロボにバランスとかを考慮せずに、やりたいことをやらせられる感じで。
やってることは一応リアル系なんですがノリがスーパー系です^^;

次回は微妙に違うノリの戦闘が行われますので、よろしくおねがいします。

では、また〜。