静寂。

無音の世界。

深い、深い闇。

闇が深くなるほどに、輝きを増す消えそうなほどに痩せこけた月。

その全てが、私の味方。

闇に蠢き、血に塗れ、死臭を撒き散らし、肉塊と鉄塊を生産し、これまで私は生きてきた。
・・・そして、これからも。

地球軍、ザフト軍、その他諸々。
どこにも属さず、二人と一機。

それはまるで、出口の無いトンネルのようだ。
一度入ったら、それまで。 終わりなど無く続いていく。

これは、そういう道だ。
夢や希望はなく、一番近い未来・・・、そう、明日を掴むことすらも曖昧。

あるのは死と破壊が交差する破滅。

生きるために殺し、金を得て、生を繋ぎ、また・・・。
この生きるために死地に飛び込む矛盾の繰り返しが、彼の中から私を創り上げた。


・・・それは暗い、暗い死の世界・・・。
・・・私の世界へようこそ・・・。





PHASE-01  Eve 〜前夜〜





遠くに光。
その周りだけ、夜の空と大地が明るく照らされている。
だが、神経質なまでに灯した照明が、「自分はここだ」とアピールをしているように見える。

昼の世界に生きる人間という生物は、闇を、夜を恐れる。
ゆえに、黒を塗りつぶそうと必死に足掻くのだろう。

その光の周囲を歩行する人影が2つ。 
機動兵器、モビルスーツと呼ばれる人型の巨大な機械。
そして、その胸部のコックピットに乗っているであろう、顔も知らないパイロット。

事前に得た情報と寸分狂わず、2機編成で建物の周りを警戒するようにゆっくりとした歩調で周回する「彼とそれ」が、まず最初の獲物。

そしてその機械人形に守られるように並ぶ、大きな建築物。
恐らくは格納庫だろう。
そしてその奥には発令所や宿舎と思われる建物も見える。

その中に眠っているであろうモビルスーツと人間が標的。

それ以外の建造物はなるべく壊さない、というのが、顔も知らないクライアントとの契約内容の中の一項目だ。
例えば、作戦が成功したとして、その後、此処をどうするのかなど私は一切関与しないし、知りたくも無い。

私のすることは、機械兵と操縦兵を、存在したという痕跡だけを残して土塊に還すだけだ。

作戦前夜の斥候を果たし、無数に分岐する可能性をあらかたシミュレートし終え、確実な虐殺のイメージを掴み、満足気な笑みを浮かべる。
雲に隠れ消えかかった月と同じ程度に僅かに歪む口元。

夜の空と同じ、鴉の様な黒濡れの髪と小柄な体躯を覆う黒一色の装束。
それとは裏腹に鉛のように冷たい灰色の瞳が、彼が遺伝子操作された人間であることを告げている。

夜明けの明かりに照らされる前に印象的な灰色の眼と韻を残して、彼は夜の闇に消える。





巡り会えた貴方達に、祝福を。
最後の一日に、喜びを。
終わりの夜に、絶望を。
遺されし者に、哀しみを。
死にゆく貴方に、祈りを。

深い眠りに堕ちていく。
底は無く、永遠。
痛みも苦しみも無い世界へ。
還るべき場所へ。
全てを委ねたまえ。
私が貴方を導こう。

さようなら。



≪PHASE-02へ続く≫


[あとがき]

どうも、wataです。

前作(―流れ星―)から約一ヶ月くらいでしょうか。
お久しぶりです。

まずは、第一話。
まぁ、なんか暗い感じのお話ですが、後々の今回は戦闘シーンに力を入れて書くつもりですので、多くの方に読んでいただければ幸いです。

それでは、よろしくお願いします。