-翼を得た龍は何を望む- 後編

某日、"ドラッヘン・フルーク"実験中…

マシンがトラブルを起こし急停止した。
その為、今日の実験は中止せざるを得なくなった。

「かはっ…げほっげほっ…うっ…」

肺を圧迫され苦しそうにコックピットから出てくるパイロット。
うわ言のように「息が…」と繰り返す。
仲間の研究員が肩に貸り、よろめきながら歩く。

そこに一人の男が傍まで走ってきた。

「お、親父…げほっ…」

男はいきなり、そのパイロットを殴り飛ばした。

バキッ!

「何たる様だっ!!それでも私の息子か!!」

「ちょ…!デュフォンさん!彼は怪我人です!」

研究員のそんな言葉にも耳を貸さず、地面に倒れるパイロットに歩み寄る。

「もう一度乗れ。やり直しだ」

「なっ………!?」

「無茶です!そんな事したら今度こそ本当に死んでしまいますよ!?」

周りの声を無視し、デュフォンはパイロットに詰め寄る。

「どうした。さっさと乗れ。今度こそ成功させるんだ!」

「げほっ…い…いやだ…」

パイロットの必死の言葉にデュフォンは眉を顰める。

「……何だと?貴様、もう一度言ってみろ」

「嫌だと、言ったんだ…げほっ…何でアンタなんかの、」

バキッ!

最後まで喋る前に、デュフォンはもう一度パイロットを殴り飛ばした。先程よりも強く。

「この出来損ないが!偉そうな口を叩くな!」

「やめて下さい!少し落ち着いて下さい!デュフォンさん!」

「ええい!煩い!そこをどけ!」

「今日の実験はもう中止です!もう一度検討してまた後日、」

「そんな悠長な事を言ってられるか!あいつを早く乗せろ!」

そうこうしているうちに救護班が駆けつける。

「おい!誰か!担架持って来い!」

「しっかりしろ少年!」

「くそっ!まだ若いというのに…!」

「残っている奴!デュフォンを取り押さえろ!」

…………

………

……




*********

それまで様子を伺っていたバハムートノワールが斬り掛かる。

ルドラワイバーンはそれを"ヴィーヴィル"で受け止めた。

ギギギギギィ……

手にした武器で鍔迫り合いになる2機。

『…"デュフォン・ライオット"…』

「…ザフト開発局"ドラッヘン・フルーク"開発グループの一人…」

『そう。研究にとり憑かれた、俺の親父だ…』



ガシィィィン!!

一際大きな音を立て2機は間合いを取る。

バハムートノワールはすかさず高エネルギー長射程ビーム砲"アンドラステ"と"ポルクスW"を撃ち込む。

ルドラワイバーンはサイドステップで避け、片側の高収束プラズマ砲"アジ・ダハーカ"を撃ち返す。

しかし、そのビームを盾で弾き、ビームライフルを連射する。

短いステップで数発避けてから、避け切れない弾をビームシールドで弾いた。

互いに大きなダメージを与えられずにいた。

『その後、研究はGOSに移された。俺もその時にGOSに戻った、』

そこで一旦、言葉をおいた。

『この忌々しい"リントヴルム"の名を背負いながら!!』

両手のビームライフルショーティーをルドラワイバーンに構える。

「まだ僕が出てきていませんね…これからですか?」

『今から話してやるよ。しっかり生きていられたらなぁ!!』

バハムートノワールは全ての射撃装備を展開し、

『食らいやがれっ!!』

ルドラワイバーンに向けて一斉掃射した。

「くっ…!!」

回避しきれず、左腕のビームシールドを広範囲に展開する。

追い討ちを掛けるように、バハムートノワールから光が放たれ姿を消した。

(……上っ!!)

『食らえっ!!』

真上からビームの雨が降り注ぐ。

ビームシールドを傘のように上に掲げて弾く。

『ふん!貰ったぁっ!!』

それを狙っていたのか左手首から放たれたアンカーがルドラワイバーンの右足に絡みつく。

右手に"フラガラッハ3"を持ち、ルドラワイバーンを引き寄せた。

『これで終わりだな!カイッ!!』



「…いえ。まだまだ続きそうですよ」

左足のビームクロウでアンカーを切り飛ばす。

構えていた対艦刀に両肩のミサイルを数発ぶつけた。

バァンバァンバァンバァン!!!

『ちぃっ!!!』

6つのビームブーメランが同時にバハムートノワールに襲い掛かる。

手に持った対艦刀を振り回し、それを弾く。

構え直した時、そこにルドラワイバーンの姿は無かった。

『ちょこまかとっ!!』

察知しているかのように背後に"アンドラステ"を撃つ。

「くっ………!」

ルドラワイバーンは難なく避けるが、攻撃のチャンスを失った。

バハムートノワールは両腕にビームサーベルを展開させ追撃する。

ルドラワイバーンはそれを防がず避けると、"ヴィーヴィル"を構え、

ズバァッ!!!

盾の無い内側からバハムートノワールの右腕を切り落とした。

『なっ………!!』

「これで終わりです!」

切り返した"ヴィーヴィル"でそのまま真っ直ぐ突き出した。

『ナメるなぁーーーっ!!!』

対艦刀を左手に取り振り下ろす。

瞬時に"翼"を広げ、攻撃を避ける。

『面白い!俺と貴様の"龍の翼"…どちらが優れているか!』

バハムートノワールも背中の翼を大きく開く。

そのまま高速でルドラワイバーンに迫る。

ガシィン! ガシィン!

何度も何度も、互いにぶつかり合う。

ガシィン! ガシィン!

しかし次第にルドラワイバーンの速度が落ちていく。

本来、"ドラッヘン・フルーク"は人間には長時間耐えられない。
よって、今では瞬間的な超加速ブースターとして使用されていた。
連続して使用すれば幾らカイと言えども負担は大きくなる。

「くっ!」

『どうしたどうした?もうお終いかぁ?』

そしてルドラワイバーンの翼が閉じられた。

『貰ったぁっ!』

高速状態のまま、対艦刀を握り締めてルドラワイバーンに迫った。


そして剣が振り下ろされる瞬間、


再びその新緑の、"龍の翼"を開いた。


「……すぅ」

カイは息を吸って気合を入れる。
対艦刀を避け、ビームランスを突き立てる。

『!ぐっ……!?』

刺さる直前に剣で防ぐ。

が、さらに切り返してビームランスを振り下ろす。

ズバァァッ!!

『がっ………!!?』

今度は左肩から全てを切り落とした。

『くぅ……!!畜生っ!!』

機体の両腕を失い、敗北を悟ったギュスタフは踵を返して逃げる。

『ちっ!何なんだ…急に動きが』

そこでギュスタフの言葉が止まる。


後ろからルドラワイバーンが迫ってきていた。

高速状態で逃げているにも関わらず、その距離は確実に縮んでいる。

まるで獲物を見つけて襲い掛かる猛獣のように。

『ひぃ………!?』

(これが…真の"ドラッヘン・フルーク"だと言うのか!?)

想像を遥かに上回る"龍"に、ギュスタフは初めて恐怖を覚えた。


「逃がしません」

さらに加速するルドラワイバーン。

そして背後からビームランスでバハムートノワールを真っ二つに切り裂いた。

ズバァァァッ!!

『ぐお、おぉぉっ!?』

激しい音と光と共にギュスタフの機体は爆発した。



機体の爆発と同時にスピードを落とすルドラワイバーン。

「ふぅ………」

カイ自身も此処までスピードを上げたのは初めてだった。

衝撃で機体が破損したり、最悪の場合、パイロットが潰れていてもおかしくなかった。

「…ちょっと苦しかった、かな」

それでもカイの余裕の表情は崩される事は無かった。



≪Epilogueへ続く≫