-翼を得た龍は何を望む- 前編 そして夜が明ける。 ********* 『"ルドラワイバーン"、システムオールグリーン…』 『発進準備完了。発進、どうぞ』 「カイ・シャオルン、ルドラワイバーン行きますよ」 ゴォオオオォォッ!! 何時もと変わらない穏やかな口調で出撃するカイ。 やがて装甲を展開した"碧の龍"も咆哮しながら決戦の地へ。 ********* 『GAT-X105E03、"バハムートノワール"全システム起動を確認』 『発進準備完了。出撃して下さい』 「ギュスタフ・リントブルム、バハムートノワール出るっ!」 ギュオオオォォッ!! 翼を開いたその機体の装甲が灰色から黒色に色付く。 "漆黒の龍"はブースターから雄叫びを上げながら決戦の地へ。 ********* 『GFAS-X1、"デストロイ"全システム起動を確認…』 『ハッチ開放…発進スタンバイ完了』 『ゲートオープン…"デストロイ"作戦行動開始』 それは開け放たれた巨大な扉からゆっくりと姿を現した。 ギュスタフのバハムートノワールが向かった後を追っていく。 ********* 指定のポイント付近を飛行するルドラワイバーン。 ぴーぴーぴーっ センサーが反応しカイに危険を伝える。 眼前に2発の弾が高速で飛び込んでくる。 だが焦らず、それを難なく避ける。 『この程度じゃお前に通用しないよな……カイ』 「…ギュスタフさん」 ルドラワイバーンの少し前にその"黒い影"は居た。 カイは臆する事なく話を続けた。 「あなたの目的は何です?どうしてこんな事を…」 『目的ぃ?…はっはっはっ!!』 「何が可笑しいんですか?」 『目的かぁ…何処から話そうかぁ…』 数秒考え、ギュスタフは話し始めた。 『…本来、その"龍の翼"はお前にあるべきでは無かった…』 ギュスタフは先程よりも低いトーンで唸るように呟いた。 「…どういう事ですか」 『立ち話も難だ…そろそろ始めよう、ぜぇっ!!』 言い切ると同時に突進する漆黒のストライク。 両腕に内蔵されたビームサーベルでルドラワイバーンに斬り掛かった。 ガシィッ!! 慣れた手つきで二本のビームサーベルをビームランス"ヴィーヴィル"で受け止める。 そのままビームクロウで蹴り上げる。 が、すぐに間を置かれあっさりと避けられた。 『俺はっ!!お前が持つ"翼"の為にこの身を捧げられたっ!!』 拳銃型のビームライフルを連射する。 ビームシールドを展開させ、それを弾きながら反撃する。 ルドラワイバーンの反撃を避け、同時にレールガンを放つ。 『"ドラッヘン・フルーク"の為!!それだけの為に俺は生きてきた!!』 カイは焦らず、冷静に対処しながら回避と反撃を繰り返す。 「どうしてそれがこんな事になるんです?」 あくまでも余裕を含んだ言葉。 その言葉がギュスタフの頭に血を昇らせる。 『何も知らない分際で偉そうな口をっ!!』 "フラガラッハ3"を両手に握り、再び斬り掛かった。 突撃を避ける。が、剣は振り下ろされなかった。 回避のタイミングが崩された。そこに追い討ちを掛ける。 「!!!」 『バカがぁっ!!死ねぇっ!!』 横薙ぎに振られる対艦刀に"ヴィーヴィル"が弾き飛ばされる。 それでも怯まず、高収束プラズマ砲"アジ・ダハーカ"を撃ち込む。 カイの反撃も空しくあっさりと避けられてしまう。 『俺はお前を倒す!この"バハムートノワール"で!!』 ********* ………… 「14…7%…越えた!!!お前だけだぞ!この最果てまできたのは!!!」 少年には目の前で起こった真実が理解できなかった。 (嘘だろ……?だってソイツは俺が…) 大画面のモニターに移る、大空を飛び立つ『龍』の姿を。 (俺が使いこなす筈だったんだ!!) (何で……今日連れて来られたばかりの一兵卒如きに……) ブースターを輝かせ、ターゲットを睨み付ける『龍』。 その時、 ガッ!! 障害物にぶつかりバランスを崩す機体。 GOSのメンバーに緊張が走る。一部の人間を除いて。 (墜ちてしまえ!そのまま潰れろ!) 「落ち着け」 その声の主はガイル総監だった。 (落ち着けだと!?お前がアイツに搭乗許可さえ出さなければ…!!) 最早、少年の中に渦巻く怒気は八つ当たりに近かった。 『おっと、危ない危ない』 パイロットの声は何とも余裕を含んだ口調だった。 『龍』は身体を捻り、もう一度その"翼"を大空で開いた。 ………ワアアアアアァァァァァーーー!!!!!!! GOSのMSハンガー内、管制室、モニタールーム―――― 基地の隅から隅まで歓声が響き渡る。 少年が耳を塞いでも、その歓声の響き、そして、 あのパイロットの余裕を持った声は耳から離れることは無かった。 (俺は…!!俺は一体何の為に……!!) 大きな屈辱の前に壁を思い切り殴りつけた。 ガッ!! 右の拳から一滴の血が流れ落ちた。 ********* 距離を詰め、再び攻撃を仕掛けるバハムートノワール。 二本の対艦刀を辛くも避けながら"ヴィーヴィル"を拾うルドラワイバーン。 『あの男の言葉に踊らされていた…それだけならまだ良かった!だがっ!!』 ルドラワイバーンの両肩から放たれる6つのビームブーメラン。 それぞれの軌道でバハムートノワールに切り掛かった。 『甘いぞカイっ!!その程度の攻撃でぇ!!』 "黒い影"の翼が広がり、閃光と共に姿を消した。 (ドラッヘン・フルーク!?) 振り向き様にビームシールドを展開する。 間一髪、背後からのビームサーベルを防いだ。 『ほう…やはり貴様には見えるのか"龍の飛翔"が…』 「僕も使い慣れていますからね」 『ほざけっ!!』 もう片方のビームサーベルを振り下ろす。 それも"ヴィーヴィル"によって防がれてしまう。 『だが!これでどうだ!』 両腕に隠し持ったビームライフルショーティーをルドラワイバーンに向けて連射する。 ビューン!ビューン!ビューン!ビューン!ビューン! 「うっ…」 すぐにビームサーベルを押し返し、距離を置く。 至近距離からビームを撃たれダメージを負うルドラワイバーン。 所々、VPS装甲がビームの熱で焼けてしまった。 『くっくっく、どうした?まさかもう終わりじゃないだろうな?』 「安心して下さい。この程度でやられる筈ありませんから」 やはり何処か余裕を持った言葉のカイ。 その言葉にギュスタフは、ちっ、と舌打ちした。 『…お前のその言葉がムカつくんだよ!!』 背中から対艦刀を取り出し、構える。 ルドラワイバーンも"ヴィーヴィル"を構え様子を伺う。 「あなたは"ドラッヘン・フルーク"の為に生かされた、と言いましたね…」 『そうだ。俺はあの実験での、僅かな生存者だった…』 ギュスタフは過去の経緯を語りだす。 ********* 数年前… 「…"ドラッヘン・フルーク"の問題点?」 「ええ。他の加速装置では見られない程の数値を記録していますが、それが原因で問題が発生するんです」 「…どういう物だそれは?」 「Gですよ。パイロットに掛かる負担が大きすぎます。 普通の人間なら、いや、例えコーディネイターでも耐えられません」 「特別な訓練が必要という訳か…」 「それだけではどうにもならない分もありますが…」 傍らに立つ若い研究員が苦笑する。 それでも男は顔を顰めながら考えた。 すると、妙案が思いついたのか顔を上げる。 「ならば特殊部隊を設立し、専用の訓練を行おう」 「…ですからそれだけでは本質的な解決にはならないんです」 「丁度、息子がGOSに入ったばかりだ。後でギュスタフを此処に連れて来い」 「……正気ですか」 「構わん。私の研究が息子の出世に繋がるんだ。これほどの妙案は無い」 「……分かりました"デュフォンさん"」 そう言い残して若い研究員はその場を去っていった。 それから数ヵ月後… "ドラッヘン・フルーク"の本格的な運用試験が始まった。 ≪-翼を得た龍は何を望む- 後編 へ続く≫
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