-翼のない龍は何を思う- 後編

翌日。
いつも通り、専用機のシグーに乗ろうとした時にリバーズに呼び止められた。

「おーい!ちょっと待てリック!」
「何ですか隊長?」
「お前、コイツで出撃するつもりなのか?」

とシグーを指差す。

「え?そうですけど?」
「ダメだダメだ!ほら!アレに乗っていけ!」
「え?えっ?」

背中を押されたどり着いた場所には、白銀に輝くグフイグナイテッドが立っていた。
驚いて言葉を失ったリックにリバーズは忠告した。

「何でも昨日、デストロイ護送の際に向こうも最新鋭MSを投入してたらしい。
 しかもVPS装甲つきのガンダムが3機もだぜ?情報では1機撃墜したそうだが」
「ガンダムがっ?」
「ああ。お前のシグー、ビーム兵器は搭載してないだろ?
 試作運用段階の機体だが、無理を言ってこっちに回して貰った」

リックは堂々としたグフを見上げる。

「僕の、新しい機体……」
「けっ!うっとりするのもいいがちゃんと着いて来いよ」

はっとなり振り向くとそこにはパイロットスーツを着たギュスタフがいた。
リバーズは何気なくギュスタフに話題を振ってみる。

「あの黒い機体は君のかい?ゲイツRとはちょっと違うみたいだけど?」
「ふっ大して変わりはねぇよ。武装はだけどな…」
「武装は?何か特殊な装置でも積んでいるのかい?」

「…さあな。それは実戦で確かめるんだな」

匂わせておきながら、はぐらかして機体に乗り込んだ。
質問をかわされたリバーズは「俺は出撃しないっての」と苦笑していた。





*********

『ギュスタフ機、中央カタパルトへ…』
『発進準備完了。発進して下さい』
「ギュスタフ・リントヴルム、アポカリプス出るっ!!」

『続いてリック機、中央カタパルトへ…』
『発進準備完了。リック機、発進して下さい』
「リック・ランス・フォルテス、グフ行きます!!」



*********

2機は慣れたように大空へ飛び立つ。
しばらく飛んでいると、センサーが敵影を確認した。
既にバクゥによる地上部隊が攻撃を開始していた。

「敵は…ウィンダム3機、ダガーL2機のみ」

(護衛にしては少なすぎる。何かあるのか?)

リックが様子を伺っているとグフの隣を黒い影が通り過ぎた。
ギュスタフのゲイツR、もといアポカリプスだ。

「ギュスタフさん!」

しかし向こうは聞いておらず、ダガーLに飛び掛った。
それに気付き、ビームカービンで迎撃しようとする。
が、当たる直前でビームを左の盾で弾いた。
スピードを落とさず、擦れ違い様に右の盾の重斬爪でダガーの装甲を切り裂いた。
援護に回ったウィンダムはミサイルのドラッヘをばら撒く。
アプカリプスはミサイルを軽く避けると、今度は左盾のビームサーベルを突き刺した。
もう一機のウィンダムが背後から急降下して突撃する。
が臆することなく、左から背後に回りこむと、今度は両方の盾でわき腹を叩き潰した。

一瞬のうちに3機のMSが爆発する。



「す、凄い…何て速さだ」

リックも負けじと傍まで迫ったウィンダムを蹴りを加える。
バランスを崩し隙が生まれた処を左腕のビームガンで撃ち落した。

ぴーぴーぴーっ

背後から迫り来るダガーL。
半身の捻りを加え、背後のダガーLをスレイヤーウィップで、

「うおぉぉぉっ!!」

思い切り薙ぎ払った。
高周波を受けたダガーはそのまま体勢を立て直すことが出来ず、地面に叩きつけられた。

全機大破を確認し、安堵の溜め息をついた時、索敵レーダーが一斉に反応し始めた。

「これは……!!」
(ミラージュコロイドか!?)

森林の茂みから多数のNダガーNがグフをロックしていた。
一斉に放たれるビームを何とか防ごうとするが、右足を被弾してしまう。

「ぐあっ!」

必死に機体のバランスを保ち、両腕の"ドラウプニル"でビームをばら撒く。
何発か命中したようだが、やはりどれも致命傷に至っていない。
その時、また黒い影が物凄い速さでグフの横を通り過ぎた。

ガッ!!ズバァッ!!

右の重斬爪でMSの首をもぎ取り、さらに左のビームサーベルで腹部を真っ二つに斬る。
驚いた彼らもすぐにギュスタフのアポカリプスを狙った。
特別な訓練が施されているのか、一般のパイロットとは異なる素早い動きを見せる。
だが、アポカリプスはその数段上回る機動性と瞬発力を発揮する。
ビームの雨を掻い潜り、1機また1機と確実に仕留めていく。
リックには黒い影を持つ死神が踊っているようにしか見えない。
そして、ギュスタフは最後のNダガーNのコックピットをビームサーベルで貫いた。

あっという間にNダガーNの伏兵部隊を全滅させてしまった。

「これがGOSの実力なのか…」
(僕が手を出す前に全滅させてしまうなんて…)

彼の実力、そして漆黒の機体の気迫に再び恐怖した。



*********

伏兵部隊から逃れた地上部隊はデストロイが搭載された地上戦艦を目指す。

(そうだ!デストロイを破壊しないと!)

慌てて、リックもそれに続こうとする。

その時、

グフの横を一筋のビームが通り過ぎた。
そのまま前を走っていたバクゥに直撃する。


『うわっ!あああぁっ!?』

突然の事に反応できなかったパイロットは悲鳴と驚きの声を挙げて散った。
他のパイロット達も急な出来事に驚愕する。
リックも驚き振り返る。それは紛れもなくアポカリプスから放たれたビームであった。


「な…!!何やってるんですかギュスタフさん!!」

通信に流れ込んだ声は弁解ではなく怒気の孕んだうなり声だった。

「……んだよ…」

「…え?」



「お前たちは甘いってんだよっ!!」

もう一機のバクゥに襲い掛かるアポカリプス。
レールキャノンで抵抗するが、簡単に避けられ頭から後ろまで真っ二つにされた。

「ギュスタフさんっ!!」

さらにバクゥに襲い掛かろうとするアポカリプスの前に立ち塞がった。
リックは声を張り上げて叫んだ。

「こんな事して何になると言うんですか!?」
「どけぇっ!!どかないなら……!!」

鋭い鉤爪で襲い掛かるが、間一髪シールドで防いだ。
そのままアポカリプスの腹部にミドルキックを入れる。

相手もすぐに体勢を立て直すと両腰のレールガンを連射する。
それを飛び上がってかわし、ビームガンを連射して弾幕を張った。

構わずビームライフルを撃とうとするアポカリプスに支援に回ったバクゥが迫った。
バク宙でバクゥの突進を避け、背後からビームライフルで撃った。
その行為には何の躊躇いも感じ取れない。

「皆さん作戦は中止です!此処は僕に任せて皆さんは逃げて下さい!!」

パイロットは皆一瞬戸惑った。
しかし、ギュスタフに勝てないのを悟り、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「待てぇ!腰抜けどもがぁ!」
「一体どうしたんですかギュスタフさんっ!!」
「黙れぇっ!!テメェ如きがこの俺を止められると思うな!!」

ビームライフルの連射をシールドで防ぎ、ビームを撃ち返した。
しかしその瞬間、アポカリプスから放たれる眩しい光に囚われ目が眩んだ。





ぴーぴーぴーっ…

「……………っ!!!」

目でもレーダーでも追えなかった。でも身体はしっかりと『ソレ』を感じ取った。

背後にいる、恐怖の死神の殺気を。

(一瞬のうちに背後に回り込むなんて…!!)

「じゃあな…"白銀の騎士"様よぉ…」
(殺される…っ!!)
「うわあぁぁぁっ!!!」

背後の恐怖を振り払うようにスレイヤーウィップを振り回した。
向こうも驚きすぐに避けようとするが、右肩にぶつかる。

「ちっ…!!」
「うおぉぉぉっ!!!」

グフはビームソードを取り出して斬りかかる。
相手は簡単に受け流し、ビームサーベルで反撃する。
リックは予想していたのかのようにシールドではじき返し、そのまま突進する。

「だあぁぁぁっ!!!」
「がっ……!!!」

一瞬ガードが解かれたアポカリプスに腹部に命中した。
距離をおいたギュスタフはそのまま踵を返し逃げていく。

「待てっ!!何処へ行く!!」
「テメェと遊んでいる暇なんざ無ぇんだよ!!」

グフも追いかけるが、少しずつ距離は離されていく。

(くっ!ブースターが追いつかない!)

それでも必死に追いかける。
その時、リックに通信が入った。ギュスタフからだ。

「ギュスタフさんっ!!」
「テメェにもう一度見せてやるよ…。決して届かない差を…、
 アポカリプスの"ドラッヘン・フルーク"の恐ろしさをなぁっ!!」
「!!!」

今まで逃げていたアポカリプスが急旋回してこちらに突進を仕掛けてきた。

(……来るっ!!)

アポカリプスからまたしても閃光が放たれる。
今度はリックも怯まない。が、光と同時にアポカリプスの姿は消えた。

(そんなバカな…!!)

目にも映らない超高速。その恐怖は恐るべきものだった。

ズバァッ!!
"ドラッヘン・フルーク"の超高速攻撃によってグフのウィングは根元から断ち切られた。

「わあぁぁぁっ!!!」

飛行能力を失ったグフはそのまま地面に落ちていく。

「へっ!!そのまま潰れちまいなっ!!」

リックが最後に聞いたのは裏切ったギュスタフの嘲笑だった。






*********

数日後…



「まさかGOSから裏切り者が出るとはな…」

「正直、ビックリですよ。リックも災難だったなぁ」

「ジル!そんな他人事みたいに言うなよ!」

「そ、そんなつもりじゃねぇよ…わ、悪かったよ」

ん……

「ジル!レックス!二人とも静かにしろ!」

「んんっ……」

彼はゆっくりと目を開いた。

辺りを見れば、そこは医務室だった。

「「リック!目が覚めたか!」」
「うわぁっ!……っつう!」

身体中から激しい痛みを感じる。
そんなリックにリバーズは優しく声を掛ける。

「無理するな。少なくとも2,3日はじっとしてろ」
「僕は…どうして…?」

その言葉にジルは肩をすくめる。

「こっちが聞きたいくらいだよ。相当な高さから落っこちただろうに。
 地面に激突した衝撃でグフは大破。幸いコックピットは無事だったって事だ」

「ジル!いい加減にしないか!」

レックスが怒鳴りつける。
その時、リックは大切な事を思い出した。

「ギュスタフさん!ギュスタフさんは…っ!つぅ…」
「少し落ち着けリック。傷に響くぞ。
 ギュスタフ・リントヴルムは現在逃走中、行方はまだ分かっていない」
「そう…ですか…」

(あの人は一体、何があったのだろう…)

もしかしたら辛い過去を背負って生きているのかもしれない。
それは自分も同じこと。だが、痛みが同じものなのか分からない。
窓の外の景色を見上げる。清々しいくらいの快晴だった。

(姉さん…貴方なら、分かっていましたか?)

久しく『義姉』の笑顔が恋しくなった。





*********

デストロイ輸送阻止作戦は失敗。
地上部隊も作戦遂行を断念。
ギュスタフ・リントヴルムの所在はまだ分かっていない。
重要機密漏洩の恐れがあるため、GOSは総力を挙げて彼の所在を探っている。



リック・ランス・フォルテス。
デストロイ輸送阻止作戦の際、指揮権も持たず作戦を中止させた。
しかし、ギュスタフ・リントヴルムの件も考慮。
さらにプラント最高評議会の意見もあった。

よって彼は1ヶ月間の謹慎処分とする。

因みに彼の怪我は全治1ヶ月と診断された。



≪-翼のない龍は何を思う- 〜完〜≫


■-翼を得た龍は何を望む-へ続く■