-No Truth No Winner-
戦争ってのは理不尽だ――。
そう三隻同盟に入ったダーク・ケヴィン・ハインドは思った。
はじまりは『血のバレンタイン』だった。
身近にあった日常は砕け散った。
そしてつい4日前、ボアズにいた友人も核の炎に焼かれた。
そして今・・・彼の目の前には残された家族である弟――
シルバ・スミス・ハインドが立ちはだかっている。
『何故お前はいつも勝手なことばかりするんだ!?ケヴィン!!』
シルバの黒いゲイツはケヴィンの乗る白銀のシグーに向けビームを数発放った。
向かってくる光線を掻い潜るとケヴィンは銃をゲイツに向けた。
『勝手なこと??
何も知らないのに知ったような口を利くな!!』
ケヴィンもトリガーを引くが、シルバはその光線をかわしすぐさま撃ち返す。
『ここで連合を叩かなければ、また奴等は核を撃ってくる。
そんなこと許す訳にはいかないんだっっ!!』
連合には核兵器がある。
それは忘れてはいけない事実――。
だが、月基地は討たれた。
もうこの戦いに核が放たれることはない。
だが対するパトリック・ザラはナチュラルすべてを抹殺しようと考えている。
次に狙われるのは間違いなく地球だ。
そんなことは許されてはいけない。
地球にあのすべてを破壊し尽くす光線が放たれれば、すべての生命に危機が及ぶ。
プラントも例外ではないはずだ。
そしてまた命の価値がわからなくなるような殺し合いが始まる。
だからケヴィンはまだ戦っている。
『まだ判らないのか、スミス!!
このままでは全てが・・・
守ろうとしてきた全てが滅びるんだぞ!!』
ケヴィンはそう叫びながら操縦桿のトリガーを何度も引いた。
『プラントは強い!地球が撃たれたとしても、
生きていくことはできる!
それは宇宙に追いやられた俺達が一番わかっているはずだ!!』
しかしシルバは、悉くそれをかわし反撃のトリガーを引く。
『ちぃっ!!』
早く、早くジェネシスを止めなければ・・・
ケヴィンは自分が焦っていることに始めて気がついた。
だが焦るのも当然であった。
アークエンジェルは満身創痍。
エターナルとクサナギの攻撃ですらジェネシスの壁を破ることはできない。
アスラン・ザラのジャスティスはヤキン・ドゥーエに突入したきりである。
キラ・ヤマトの駆るフリーダムはザフトの謎の新型と交戦している。
『何をよそ見している?
そんな余裕はお前に無いはずだ!ケヴィン!!』
そう言ってスミスの乗る黒いゲイツが放ったビームは、
白銀のシグーを完璧に捉えていた。
咄嗟に盾を差し出し致命的なダメージは避けたものの、
よろめいたシグーはさらに重いものに当たり、吹き飛んだ。
『うわぁっっ!!?』
シルバの乗る黒いゲイツが猛スピードでタックルをしたのだ。
すぐさま体勢を立て直したシグーは、
自分に向けられたゲイツのライフルを、撃ちぬき
もう一発をゲイツの頭部に放つもシルバはそれをうまくかわした。
そこへゲイツのコクピットにテキスト通信が入ってきたことにシルバは気づいた。
それは――
ヤキン・ドゥーエの自爆シークエンスと
ジェネシス発射のカウントダウンであった。
『この戦争、ザフトの勝ちのようだな!!』
『どういうことだ?スミス?』
シルバの発言にケヴィンは違和感を覚えた。
さっきまでの怒りに満ちていた話し方は一変して、
勝ち誇ったような高笑いをした。
『はははははは・・・!!ヤキンは後20分で自爆する!
ジェネシスの発射もそれに連動している。
もう終わりだ!お前の守ろうとしたものは脆くも崩れ去るわけさ!!』
『何っ!!?』
ケヴィンの体に戦慄が奔った。
避けたいと願っていたことが、
恐れていたことが、
現実になってしまう。
そこにヤキン・ドゥーエからジャスティスが脱出してきた。
同時に通信が入る。
――ジェネシスを内部から破壊する。
その内容にケヴィンは驚いた。
そんなことが可能なのだろうか?
しかし、それ以外に方法は無い。
一縷の望みをアスラン・ザラに託すしかない。
しかし、ジャスティスがジェネシスに接近するのをシルバは見逃していなかった。
『内部に侵入するつもりだな・・・。
させるわけにはいかないな・・・。』
黒いゲイツはビームクローを展開させジャスティスに近づこうとするが、
数発のビームが彼の行く手を阻んだ。
ケヴィンの白銀のシグーだ。
ケヴィンはライフルを捨てて、レーザー重斬刀を抜いた。
『彼は・・・アスラン・ザラは最後の望みだ。
潰させる訳にはいかないな!
お前は殺してでも止めてみせる!!』
シルバは生き返ったような声で笑った。
『おもしろい・・・。
やっとその気になったか!!』
ゲイツが振り下ろしたクローをシグーは盾で防ぎ、
袈裟斬りで返すもゲイツはバーニアを噴かし、それを避けた。
二人は楽しみの表情を浮かべた。
殺し合いにもかかわらず・・・。
さらに斬りあう二人の機体は、
次第にダメージが目にわかるようになってきた。
シルバはコクピットのヤキン・ドゥーエ自爆までのカウントダウンに視線を落とす。
残り2分20秒、19、18・・・。
時間が無い。下手をしたら爆発に巻き込まれるかもしれない・・・。
しかし退くわけにはいかない・・・。
シルバは白銀のシグーにさらに斬りかかった。
シグーはそれをかわしゲイツの右腕を斬り飛ばした。
『スミス・・・。
時間が無いんだろう?ここは互いに退こう。
爆発に巻き込まれるぞ・・・。』
『いやだね!!ここで決着を着けなかったら
俺は永遠に後悔する・・・!!』
『何故だ!?何故そこまでして戦おうとする!!?』
ケヴィンの問いにシルバ・スミス・ハインドは力強い声で答える。
『お前を殺すこと・・・それが俺にとっての“正義”であり勝利なんだ!
ジェネシスがどうなろうと関係ない!!』
その答えに、ケヴィンは笑って返す。
『お前は本当に一途なヤツだな・・・。
昔と少しも変わらない・・・。』
『決着を着けよう・・・。』
二人は再び互いの刃を構えた。
――行くぞ――
そう二人が言うと白銀のシグーと黒いゲイツは、
互いに向かって猛スピードで近づき斬りかかった。
ゲイツは頭部を破壊されるも、シグーの右腕を斬りおとす。
ゲイツがさらに斬りかかると、シグーはそれをかわし、
懐に潜り込み、残された右脚で強烈な蹴りを繰り出した。
ゲイツのコクピットに強い衝撃が奔る。
シルバは自分が負けたことを自覚した。
そして意識を失った・・・。
その瞬間。
ジェネシスが光を放ち。
二人を包んだ――。
戦争はやはり理不尽なものだ――。
日常が非日常に、
常識が非常識に、
そして、愛するものが敵にもなりうるのだから。
こうして――
戦争は終わった。
***
シルバはオーブに一時的に保護されていた。
彼の乗るシャトルが、宇宙に向かっているのを見たケヴィンは
別れ際にシルバが言ったことを思い出した。
――あの戦いで結局勝った者はいない。でも、俺は自分の正義を貫こうと思う。
――それが生き残った俺の選択だ。その道を阻むのなら。
――お前であっても。
――殺す。
それで良いさ。ケヴィンはそう答えただけだった。
確かにあの戦争で解決したものは何も無い。
プラントの反ナチュラルも、
ブルーコスモスも。
何一つとして解決していない。
(このままでは終わらなさそうだ・・・。)
ケヴィンはフッと笑うと振り返り、
港を後にした。
自分も己の道を歩み続けるために――。
≪- No Truth No Winner - 〜完〜≫
[あとがき]
初めまして、消です。
一話にすべてを詰め込みました。
ちなみにこの話自作デスティニー編の序章として書いたわけですが、
こっちがすっきりした話なので
デスティニーのオリモビ同士の
不毛な戦いに比べると何か楽でした(笑)。
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