護れたのかな。 護れたよね。

誰も私を責めないよね。

褒めてくれるよね。

今は、ゆっくりと休みたいな。 心も、体も。

そしたらまたソラを駆け抜けたいな・・・。





FINAL-PHASE ワタシとアナタとミンナでソラを




司令官の言葉に安堵が生まれてしまった。

その瞬間、隙が生まれる。
唯、一度の油断。 それは致命的なまでの隙を作ってしまった。
戦争は、人のそのような隙間に漬け込んでくる。 あくまで冷静に、冷徹に。


ユラり、と動きはじめたシューティングスター目掛けて、残骸に漂っていたムラサメの一機が真正面から突っ込んできた。 
仲間がやられていく中、じっと息を潜め機会を窺っていたのだ。 そう、冷静に、冷徹に。

完全な不意打ちに、回避行動が間に合わない。

――けど、私には光の盾があるんだからっ!

下手に動いて、四肢に損傷を受けるくらいなら、盾で確実に受け止める。

「くぅうっ!?」

しかし、襲ってきたのは盾への信頼を打ち砕くかのような、予想外の攻撃。 いや、それはもはや攻撃などではなかった。
光の盾に装甲を焼かれながらも、ムラサメはシューティングスターにしがみついて来たのだ。

みるみる融解していく装甲。 それでも離れない。 振りほどけない。
脇の下に腕を絡ませてきたため『パルマ・ベルタ』も使えない。

『誰か』

自分のものではない、男の声が聞こえた。
その声には迷いがなく。 

『誰か、撃て・・・。 オレを・・・こいつを撃て・・・』

「そ、そんな!?」

爛れた胸部の装甲は今にも剥がれ落ちそうだ。

『・・・女か。 すまんな、これもオーブの・・・、地球のため・・・』

世界がスローに映る。

遠くにギチギチ、ギチギチと錆付いたカラクリ人形のような動きでライフルを構えるもう一機のムラサメの残骸。 
下半身は既になく、左腕もなくなっている残骸が、それでも銃を持った右腕を上げている。

『誰でもいい・・・、撃てぇーッ!!』

発砲と同時に特大のマズルフラッシュ。 
違う。 機体が、光に飲まれ崩れていく。 限界を超えた機械の末路だった。

ビームが伸び、ムラサメの腰を貫通。 そしてシューティングスターに到達する。
正面からしがみ付くムラサメの体を通すことによって、アストゥラーレ・スクードを無効化したのだ。

「きゃああああぁっ!!?」

激しい衝撃がシューティングスターとそのコックピットのエトワールを襲う。

咄嗟の抵抗の末、ビームはシューティングスターの右足を奪っていくに留まったが、それ以上にゼロ距離でのムラサメの爆発に、左の翼の関節部、脆弱な部分が吹き飛ばされコントロールを失ってしまう。
 
『うおおおおおおおおおおおっ!!!』

まだ、生きている。 そしてこれが最後とでもいうのだろうか。
男は叫びと共に地球に向けてブースターを奔らせた。

戦場が遠く離れていく。

救難信号も出してみたが、ダメだろう。
機体のみを破壊すると、噂される「オーブの守護神」という名の破壊神が暴れまわっているのだろうから。

「どうして・・・、どうしてそこまでするんですっ!?」

堪えきれずに、疑問が溢れてくる。

返答はなかった。
ムラサメの胸部装甲板はとうとう崩れ落ち、その中にあるコックピットごとパイロットも光の盾の熱で、消滅していた。


墜ちて行く。
青に輝く、母なる大地へ。


機体の表面温度が上がってきた。
しがみ付いていたムラサメは、既に焼け落ちている。
強く絡み付いていた腕だけが、機体に引っかかりながら燃えている。

未だに機体の姿勢制御もままならないまま、激しい振動がコックピットを揺らす。
これではPS装甲も無意味。 機体が耐えられてもパイロットが耐えられない。

どんなに足掻いても、スピードが落ちない。
不完全なシューティングスターでは、地球の重力には勝てないのだ。

死の足音が近づいてくる。
墜ちて死ぬ? 焼けて死ぬ? 跡形もなく? あのムラサメのように?

死ぬ・・・・・・?

「いやっ! 死にたくない。 死にたくない、死にたくなくないよぉ・・・」

純粋な死への恐怖。
冷たい鎌が首の薄皮に触れている。

「いやだ、いやだ、いやだ・・・、やだやだやだやだやだ・・・」

目に付いたボタンやパネルを我武者羅に叩き続ける。
涙を流し、嗚咽を零しながらも彼女は、あきらめていない。

どんなにみっともなくても、足掻くことを止めたら、そこでお終い。

彼女にはまだ、救いがあった。

コックピットが暗転し、唯一、淡く光るモニターに文字の羅列・・・、シューティングスターからのメッセージが映し出される。



――Don’t worry. You will be all right.――

――心配しないで。 きっと大丈夫――

――I am Shooting Star. I’ll satisfy your wish――

――私は流れ星。 あなたの願いを叶えましょう――

――But…. This is the last Dance. 『Astrale Ausilio』――

――だけど・・・、これが最後です。 『星の加護を』――



暖かい光に包まれた。

燃える大気圏に落ちながら、シューティングスターは、無尽蔵といわれるハイパーデュートリオンから生成されるエネルギー全てを光の盾に回している。

限界を超えても、なお耐え続けている。
翼は弾けとび、機体とのジョイント部分からも光が溢れている。

長く、強く、儚く。 光の尾を引いて。
シューティングスターは空に落ち、地に墜ちる。

熱、大気、衝撃。
全てを遮断するかのようにシューティングスターは輝き続ける。

すべては、エトワール・レヴィ・ソレイルを護るために。

「あり・・・がとう・・・。 ありがとう・・・。 ありがとう・・・」

――最後まで、私のためにありがとう。
――願いを聞いてくれてありがとう。

声にならない声で、シューティングスターに語りかける。

――私は生きています。
――明日があります。

まさに、消えることのない流星。
幾百、幾千、幾万の人々の願いを聞き届ける流星。
エトワールの命を包む流星。

「さようなら」

――また、やり直せます。
――あのソラへ還れます。

「ありがとう」

――また、一緒に飛びましょう。

――私と貴方と皆で宇宙を。











どこかの海辺。
母親と共に砂浜に足跡を残し歩く、幼い少女が一人、夕焼けに染まった大空を見上げている。

「平和になりますように。 平和になりますように。 平和になりますように!」

天空から舞い降りる、消えない流れ星。

母親は、少し寂しそうな顔をして、膝を折り曲げ、少女と同じ目線の高さに顔を持っていく。

「それは、大人の仕事なの。 だからアナタは、アナタの願い事を言いなさい。 きっと流れ星さんは待っててくれるから・・・」

「ん〜と、じゃあねぇ・・・」


無垢な想いが紡がれること三度。

天と少女を繋ぐ架け橋のように。
流れ星は、水平線の向こうにゆっくりと消えていった。



≪-流れ星- 〜完〜≫


[あとがき]

同じく「現在」のお話です。

「Astrale Ausilio」 読み方は「アストゥラーレ・アウジリオ」

最終話+プチエピローグを持って「流れ星」は完結となります。 お付き合いくださってありがとうございます。
第1話のあとがきで書いたとおり、極端に登場人物の少ないお話になってしまいました。
正確にいうとネームドキャラが、ですね。

悩んだんですが、エトワールの仲間は最後まで出さないと言う方向に落ち着きました。
この話は、エトワールの話だということもあるのですが、

何処にいるのかも、生きているのかもわからない。
けれど・・・

「流れ星にお願いしたんだからきっと大丈夫!」

という終わり方にしたかったので・・・。
その先を深く書くことは止めました。
納得していただけるでしょうか?

そしてエトワールとシューティングスターは地球に住む人々の希望になりましたとさ、というプチエピローグで話を閉めさせて頂きました。

では、また機会があればよろしくおねがいします。