一月は長かった? 短かった?
シューティングスターに触れている時間は短かったと思うし、仲間に会えなかった時間は長かったと思う。
その三十日を越えて、私は此処にいる。
宇宙という戦場に――。
結局、仲間に再会することは出来なかった。
けれど、それでも構わない。
出撃間際、慌ただしい格納庫で、生まれ変わったシューティングスターを起動させた時。
―Don’t be afraid.
We are with you!!―
起動画面にそう映し出されていたから。
ちゃんと、皆の想いは伝わったから。
視界が歪んで何かが頬を伝い、無重力のコックピットに散った。
たった一言が何よりも心強かった。
どんな勲章より、訓練より、その一言が私を強くしてくれる。
「エトワール・レヴィ・ソレイル! シューティングスター、行きます!!」
何処にいるかもわからない仲間たちに、届くように。
彼女は精一杯の声を張り上げた。
PHASE-02 ワタシのチカラとミンナのオモイ
エトワールとシューティングスターに与えられた命令は一つ。
その規格外の機動性を生かし、単独での突入による敵戦列の撹乱、及び各個撃破。
殺すくらいなら、殺されたほうがマシ。 そんなことは決して思わない。
半年前のあのソラと、夢と、何処にいるかもわからない仲間を護るために戦うと覚悟は決めた。
母艦からシューティングスターが戦場を切り裂く流星の如く飛び出す。
みるみる後続の量産期を引き離し、オーブのムラサメ部隊に切り込みを仕掛ける。
帰る場所を振り返らず、真っ直ぐに突き進み、あっという間に会敵ポイント、最前線よりさらに深い戦場にたどり着く。
恐怖はない。
皆がついている。
皆が見守ってくれている。
――だから私は、私の力と皆の想いを信じる。
圧倒的な速度のシューティングスターを、オーブ軍は最高レベルの脅威とでも認識したのだろうか。 おそらく三小隊程度のMSで包囲陣形を形成する。
上下左右前後・・・。 何の合図もなく、ありとあらゆる方向からのビームが網目のようにシューティングスターを目掛けて襲い掛かってくる。
だが、流星は止まらない。
光の盾 『アストゥラーレ・スクード』
幻影の翼 『グラデーションミラージュ』
・・・セットアップ。 ・・・フルドライブ!
機体前面に光の盾が現れ、コロイド粒子を撒き散らしながら翼が踊る。
幻影を残し、シューティングスターは瞬きを許さないスピードで不規則に舞う。
その様は、まさにフェアリーダンス。
光学センサを狂わせる残像をビームがすり抜け、光の盾に当たる正面からの射撃は、意味を成さない。
機体のOSに標準を任せるナチュラルの射撃では当たるはずが無いという絶対の確信。
当たらない。 幻影が見る者全てを惑わすから。
当たらない。 強固な盾が襲い来る全てを弾くから。
当たらない。 流星の速度に誰もついてこれるはずがないのだから。
ムラサメ部隊は慌てた様子で囲いを広げようとするが、遅い。
可変型のスピードでさえもシューティングスターには敵わないのだ。
「・・・っ」
華麗な動きとは裏腹にコックピットのシートに体が埋もれるのではないかという程の強烈なGと、もう一つの理由にエトワールは歯を食いしばる。
――私は、今、人を殺す――
トン、と追いついたムラサメの胴体に軽く右掌を押し付ける。 ムラサメの背からは細い光が零れている。
その数瞬後、ムラサメが動きを止め爆裂する。
触れた掌から突き出る光の杭。
『パルマ・ベルタ』ビームパイルバンカー。
シューティングスター唯一にして必殺の一撃を生み出すための隠された杭撃ち機。
無手の状態から放たれる圧縮されたエネルギーの塊は、MSを破壊するだけの力を十二分に所有している。
斬られてもない。 撃ち抜かれてもない。 触れられただけ。 なのに何故・・・。
何もわからぬまま、ムラサメのパイロットは炎に飲まれ、絶命しただろう。
仲間の一機が落とされるのを目の当たりにしても、なお、ムラサメ隊は向かってくる。
射撃はダメだと察したのか、袈裟に振り下ろしてくるサーベルをかわし、回り込んで背に軽く触れる。
爆散。
次々と向かってくる敵の攻撃をかわし、時には追撃して貫く。
自らの心を裂かれるような思いでエトワールはムラサメを破壊していく。
命を奪う感触が伝わってこないように、宇宙に嫌悪を抱かないように、仲間が人を殺す道具を造ったという実感が湧かないように、どの残骸も例外なく一撃。 掌から生えた杭で穴を穿たれている。
そして、再び羽ばたく。
彼女が残像を残しながら舞った空間には、無数の破片が漂っている。
「はぁはぁ・・・」
荒い息。 苦しい。
超高速で戦闘機動を取るシューティングスターのパイロットにかかる負荷は尋常ではない。
気が緩むと、内蔵が押し潰されてしまいそうになる。
ここまで持ったのも、設計者の対G対策が万全だったからだろう。
わずか数分。
数分の戦闘機動がエトワールの限界だった。
肉体的にも。 そして精神的にも。
『・・・よくやった。 帰還しろ』
無機質な上官の無機質な命令も遠くに聞こえる。
「了解・・・」
エトワールの声も自然と無機質になってしまう。
再びの出番があるのでしょうか?
これで終わりでしょうか?
今は、ゆっくりと休みたい。 心も、体も。
築いた残骸の山に動く影。
彼女は気づかない。
≪FINAL-PHASEへ続く≫
[あとがき]
どうも、wataです。
ここからは、完全に「現在」のお話です。
今回は圧倒的なスピードを誇る、戦闘用シューティングスターのプロモーションビデオのような展開ですね。
ですが、最後は・・・。
「会えない仲間でも、繋がっていられるというような感じをどう表現するか」
をテーマに書いてみました。
一応、英文の口語訳です。
「怖がらないで。 僕たちはキミと一緒だから!」です。
次回が最終話となりますので、よろしければ最後までお付き合いください。 よろしくお願いします。
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