そして半年後。
プラントが切り裂かれ、月が戦場と化し、地球からは無数の兵が迫ってきている。
あの世界は幻想だったのだろうか。
宇宙という世界はこんなものだったのか。
当たり前と思っていた光景は、過去に成り下がった。
あれほど綺麗だった宇宙には、無数の醜い花が咲いている。 命を喰らい、咲き誇る人喰い花だ。
その爆光一つ一つにどれだけの人間が過去形にされているのだろうか。
その命が零したであろう最後の言葉も大気の存在しないこの世界では誰にも届くことのない。
光の拡大にその身を飲み込まれ、光の収束と共に消滅するだけ。 ただ、それだけだ。
――私は、今、此処にいる。
宇宙という、戦場に。
PHASE-01 ホシにネガイを
それは、ホンの1ヶ月前・・・。
『ザフト軍実験部隊一〜三班は、本日付で解散。 パイロットは、1月の訓練期間を経た後、指定された隊へ配属・・・』
基地に張り出されていた命令。
たった一枚の紙切れに体も思考も氷漬けにされたような感覚だった。
きっと普段から白い肌から血が引き、青みを帯びていただろう。
「僕たちにも・・・、戦場に出ろって事?」
エトワールの隣では、シューティングスターのメンテナンススタッフの一人のネス・ロジャーが疑問の声を上げている。
この紙の言うとおりなら、彼は明日にでもドッグ入りし、シューティングスターの改修作業に移らねばならない。
何時か戦場に送り込まれるかもしれないということは、誰もが覚悟していた事態だ。 けれど、誰も納得していない。
自分たちの仕事は、殺し合いをするのではない。 機体のデータを取ることだ、と誤魔化し続けてきた罪悪感と今更向き合わなければならないなんて、誰もしたくない。
シューティングスターが叩き出したデータは、もうすでに最新鋭の機体に繁栄されている。
当面、この部隊は必要ないというのが、顔も見たことの無い、自分たちを駒として計算する「上」の判断なのだろう。
軍に籍を置いている以上、命令に逆らうことなど誰にも出来ず、仲間は散り散りになる。一度得た物を手放して・・・。
――ただ、ソラを舞うことだけを望む。 それは叶わないのでしょうか? 赦されない事なのでしょうか。
失くして初めて実感する。
――夢。 ソラ。 愛機。 そして、仲間・・・。
自分は恵まれすぎていたのかもしれないと。
――だけど、それを享受する事はいけないことなの?
ただ一人、一人ぼっち。
湧き上がってくる感情・・・、『寂しさ』を忘れるように、日に日に複雑になっていくシミュレータのロジックを解いている。
最初にジンを操った。
シミュレータの画面に流れる映像がまるで止まっているようだった。
次にザクを操った。
やっぱり遅い。 どんなにペダルを踏んでも、ブレイズウィザードを装備してみても、あの光景には程遠い。
最後にシューティングスターを操った。
だけど、それはまったくの別のMSだった。 愛機の面影を残しつつも、異なる操作性。 最高速度のみに特化していたはずの機体が、戦闘用に改造されていたのだ。
新たに得た翼によって、複雑な機動が可能になり、生成した粒子によって残像を撒き散らす。
まさに「舞」―。
妖精が、その羽から燐を振り撒きながら踊るように、シミュレータの中のシューティングスターは、論理で構築された宇宙空間を舞っていた。
シューティングスターは「宇宙を舞うように飛びたい」というエトワールの理想に近づいた。
だが、素直に喜べない。これはもう、人を殺すための機械なのだ。 ソラを汚すための機械なのだ。
なんと言う皮肉だろうか。 理想と現実という背反する二つが、戦争によって結びついたのだ。
それでも、この機体がこのシミュレータにあるということは、ネスたちがこの機体を完成させたという事なのだろう。 普段、仕事以外ではあまり会話もしたことの無い彼等が、自分の理想を理解してくれていたようでエトワールはうれしかった。
私と仲間たちだけがわかる繋がりが暖かかった。
――ありがとう――
素直に喜べなくても、素直に感謝は出来る。
一人じゃない。 その気持ちを胸に、彼女は操縦レバーを握る。
生き残るために。
いつか戦争が終わったら、また皆が造った機体で無限のソラを飛べると信じて。
叶う。
きっと叶う。
貴方は空を舞う流星。
シューティングスター。
三度願えば想いは伝わる。
私と仲間と貴方が願えば、想いは伝わる。
「また皆で、ソラを飛びたい」
星に願いを。
≪PHASE-02へ続く≫
[あとがき]
こんにちは、wataです。
今回は「現在(半年後)」と「1ヶ月前」が物語の舞台です。
前回使った運命という言葉が、紙切れ1枚で引き裂かれてしまいました。
しかし、エトワールは宇宙を飛ぶという事を失い、初めて仲間たちの暖かさを知りました。
その結晶がZGMF-SE02V シューティングスターというです。
お気づきでしょうか?
未だにエトワールが喋っていませんよね。
回りの仲間がいない為、彼女が声を出しても「独り言」にしかならないため、という事ですのでご容赦ください。
では、次回もよろしくお願いします。
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