黒。 黒。 黒。
開けた視界の先は、果てしなく深い闇。
だが、そこは決して暗くない。

青。 白。 赤。
漆黒のキャンパスに散りばめられた宝石が美しい。
手を伸ばせば届きそうな、星という名の無数の玉。


――いつも見上げていた空が、こんな世界だったなんて!


薄い金属壁一枚を隔てた数センチ向こうに、この世界は在る。
だが、直に触れることは決して叶わない。
身を切り裂く氷のように冷たく、身を焦す炎のように熱いこの空間は人が踏み入ることを許さない。

それくらいは知っている。 だからこそ、想いは強くなる。


――もっと近くに寄ってみたい。 体中でこの世界を感じてみたい!


幼心に描いた、純粋なソラへの憧れ。 
今まで、与えられた玩具にも興味を示さなかった彼女が初めて得た感情。
故に不安や恐れや迷いなど無く、願えば叶うと信じて疑っていなかった。

純粋に、ただ純粋に、汚れなく、真っ直ぐに。
窓の向こうを見つめる少女の瞳には、星の大海が映っていた。





Prologue  ソラとホシ





その九年後。 
――私は、此処にいる。

宇宙を駆け抜ける『流星』
彼女の愛機、ZGMF-E02V 『シューティングスター』

無重力空間においてのMSの航行限界速度を更新するためだけに建造されたこの機体は、薄い光跡を残し、通常のMSとは比べ物にならない速度で闇を切り裂いている。
時折ぶつかる細かな金属片・・・、所謂スペースダストが、機体を蔽う光の尾のエネルギーと反応しキラキラと発光しているその様は、流星の名にふさわしい物といえるだろう。

それを追いかけるようにゆっくり動く遠い星。 
機体の側を通り抜けて行く近い星。

その光景を映すモニターを見つめる彼女。
星空を舞う少女、エトワール・レヴィ・ソレイル。

ソラに憧れを描いていたあの少女が、シューティングスターを操っている。
彼女は、ザフト軍のMS運用試験部隊に所属しているテストパイロットという身分になっていたのだ。

たった九年。 
七歳の頃、初めて見た宇宙というステージに十六歳でエトワール・レヴィ・ソレイルはたどり着いた。 兵器の類は愚か、街のゲームセンターにあるシューティングゲームの筐体にすら触れたことの無かった彼女が、だ。

MS・・・、人型機動兵器という概念の登場。
もう二年前になる、あの戦争。 今、行われている戦争。 
ソレによる軍の拡張。 果てしないMSの開発競争。
そして血の滲むような努力。 天から授けられた才能。

様々な要因が彼女を此処に導いた。
それは、決して偶然ではない。

――運命――

もし、そういうものがあるのなら、九年前のあの日に彼女の『運命』は決まっていたのだろう。

運命に導かれ、彼女は宇宙を飛んでいる。
真っ直ぐにソラを見つめるアイスブルーの瞳は、九年前と変っていない。

黒。 黒。 黒。
白。 赤。 青。

もう、何度目のテストフライトだろう?

そのたびに微妙に変る星の配置と変ることのない無限の黒。
見飽きるほど見てきたはずなのに、この光景を見飽きることは無かった。

これまでも、これからも。 きっと飽きることは無いだろう。
いつまでも、いつまでも。 だけど、それは叶わなかった。


・・・そして、その半年後。
私は大事なものを失い、大事なものを手に入れた。



≪PHASE-01へ続く≫


[あとがき]

どうもwataです。
今回の導入は「プロローグ」という形にさせて頂きました。
直接、次回以降のストーリーに触れることはないのですが、エトワールという少女が宇宙を初めて見たところから物語を始めたかったのでこういう形にしました。

時系列がぴょんぴょん飛ぶので、気をつけてください。
今回は「9年前」と「半年前」の物語です。

えー、この話、実は登場人物が非常に少ないです。
それなのに今回を入れて4話の予定です。
よろしければ、お付き合いください。 よろしくお願いします。