PHASE-03 赤紫と緑の接触〜ユグドラシルは月夜に消える〜

カク・A・ロッキードの豪邸は、MS同士の戦場と化していた。
ショコラの部隊はカズナの乗るユグドラシルに襲い掛かるが、物の見事に回避された。

「くっ!なんて速さなの!?」

ショコラの部隊の一人がそう呟いた瞬間、ユグドラシルはウルドソードでシグーの頭部を斬った。

「ちぃっ!なかなか手強い・・・。乗っているパイロットは、おそらくユグドラシルを盗む前から、MSの扱いには長けているわね・・・」

ショコラは目の前にいる緑のMSを見ながら言った。
本当ならば37mm極超高速初速ライフルを使いたいのだが、回避されれば他の民家に当たる可能性が高い。
ならば、やはり接近戦で片をつけるしかない。
とすれば、やはりこの手で行くしかない!
ショコラのジン・オーカーは胸部のスモークディスチャージャーを発動させた。
豪邸があっという間に灰色の煙に包まれる。
ショコラは部隊の全員に通信を入れた。

「今です!煙で姿をくらまし、ユグドラシルを押さえるのです!!」
「了解!!」

ショコラの部隊は煙の中に入り、ユグドラシルを取り押さえようとした。

しかし、ユグドラシルの姿はどこにもなかった。

「えっ?どこにもいない!?」
「一体どこへ!?」

メンバーがユグドラシルの姿を探していると、突如メンバーの一人のMSの背後から、ユグドラシルが姿を現した。

「ええっ!?背後から!?何で!?」
「まだまだ甘いぜ!!」

ユグドラシルはベルダンディーでストライクダガーの腕部を一瞬にして切り裂いた。

「おらあ!まだまだいくぜ!!」

ユグドラシルはウルドソードを抜くと、ショコラの部隊のMSの四肢を斬り、戦闘不能に陥らせた。
ショコラは突如現れたユグドラシルに動揺した。

「そんな・・・、煙の中にいないと思ったら、突如現れて・・・。一体何故・・・」

やがて豪邸を包んでいた煙が消えると、何故ユグドラシルが姿を消したのかが分かった。
豪邸の地面に、MSが一機入るほど大きさの穴が空いている。

「そうか・・・!煙に包まれたその瞬間に地面に穴を空け、そこに潜って機会をうかがっていたのか・・・!!しかし、どうやって・・・」

ショコラのジン・オーカーはユグドラシルの脚部を見た。
ショコラは成程、と納得した。
ユグドラシルは膝部貫通回転ドリル「スクルド」で地面に穴を空けたのだ。
スクルドはおそらく、敵機に膝蹴りをすることによって、敵のMSのコクピットを貫通するために作られた武装なのだろう。
しかし、カズナはドリルの本来の役割を活かし、ジン・オーカーのスモークディスチャージャーを破ったのだ。
カズナは鼻眼鏡を人差し指で直しながら言った。

「いや〜、まさかスモークディスチャージャーを使ってくるとはな・・・。戦場ではあまり使われることがなかったと聴いていたから、どんなものかとずっと思っていたが・・・、流石は傭兵。兵器の扱い方には慣れているな・・・、だが!!」

ユグドラシルは瞬時にジン・オーカーに接近し、一気に遠くへ蹴飛ばした。

「ああ!」
「ユグドラシルがドリルを持っていたことが不運だったな・・・」

カズナは豪邸に向かおうとするが、ジン・オーカーが立ち上がってきたことに気付いた。

「おいおい・・・、まだやるのか?」
「当たり前です!貴方にこれ以上の悪行をさせるわけには・・・いきません!!!!」

ショコラのジン・オーカーはユグドラシルに近づき、右腕の拳をユグドラシルに食らわした。
ユグドラシルは思わず後ろに傾く。

「うわあ!!てめえ、よくも!!」
「はあああああ!!!!」

ジン・オーカーは素早い動きでユグドラシルに殴打や蹴りの乱撃を浴びせた。
そのあまりの速さに、ユグドラシルはベルダンディーを出すことが出来ない!

「我流拳法奥義・天獄嵐檄襲!!!!」

ジン・オーカーは止めとばかりに、飛び蹴りをユグドラシルに食らわした。
ユグドラシルは後方に転倒する。
ショコラは声を荒げながら息切れをしている。
この「天獄嵐檄襲」という技は、ショコラが我流で拳法を学んだ上で作り出した、必殺の奥義である。
しかし、奥義である故に、身体にかなりの負担がかかる。
ましてや、その身体が女性の体であれば、苦痛もかなりのものだ。
自らの身体を極限に鍛えた彼女だからこそ、使える奥義なのである。
ショコラは息を整えると、ジン・オーカーを動かし、倒れているユグドラシルに近づいて、こう言った。

「貴方がしていることは、どんな理由があるにすれ、その行為は暴力以外の何者でも無い・・・。長者を重傷に負わせ、さらにその財産を奪うなど、悪党のする行いです・・・。貴方にもう勝ち目はありません。観念しなさい」

ショコラがそう言った次の瞬間、ユグドラシルはジン・オーカーの頭部を片腕で握りながら持ち上げていた。

「そんな・・・!?まだ戦えることができるなんて・・・!?」
「おい、てめえ・・・。さっきオレがやってることを『悪党のすることだ』と言いやがったな・・・?じゃあ、訊くが・・・」

カズナは怒りを抑えているような声でショコラに言った。
そしてその怒りは、爆発した。

「今の政治家や金持ち共がやってることは悪じゃねえのか!!!!!!!!?」

ユグドラシルはそのままジン・オーカーを豪邸の池に投げ飛ばした。
ジン・オーカーはすぐに立ち上がろうとするが、ユグドラシルの猛攻はさらに続く。
ユグドラシルはジン・オーカーの左腕を掴み、そのまま一気に引きちぎる。

「金持ち共は自分の金を稼ぐためなら!!」
「ああっ!?」

そして右腕も掴んで引きちぎる。

「飢えに苦しむ貧しい人達にさらに苦しめと平然として言えるのか!?」
「くぅっ!?」

ユグドラシルはジン・オーカーの両腕を絶った後、ジン・オーカーに拳の乱打を浴びせる。

「さらに政治家や軍の上層部にいる一部の天才共は、『コーディネイターの未来のため』だとか『青き清浄なる世界のために』だとかいう、下らない正義の為に!!」
「くああっ!?」

乱打の嵐はカズナの怒りに呼応しているのか、さらに激しくなる。

「平和に暮らしている普通の人達を足蹴にして殺すのか!?」

ユグドラシルは乱打を止めると、ジン・オーカーの頭部を拳の一撃で破壊する。
ショコラはまずいと思い、急いでサブセンサーに切り替える。

「そんな奴等をオレは絶対に許さねえ!私服を肥やす金持ち共や、戦争で人々を苦しめる政治家や軍人共に、人々が今まで受けてきた同じ痛みや苦しみを味あわせてやる!!馬鹿は一度痛い目にあわなきゃ、わからねぇんだよぉ!!!!」

ユグドラシルはスクルドを回転させながら、ジン・オーカーにハイキックを喰らわせようとした。
ショコラも「やられてたまるか!」とばかりに蹴りを繰り出す。

勝敗は明らかであった。

ユグドラシルのスクルドが、ジン・オーカーの脚部を貫いた。

ジン・オーカーはバランスを崩して、池に沈んだ。
池はそんなに深くは無いが、MSが横になってすっぽり入るほどの深さであった。
カズナはショコラのジン・オーカーに向かって言った。

「オレはまだ、倒れるわけにはいかねえんだよ・・・。てめえはその池の中で、MSと一緒に水浴びでもしてやがれ!!」

ユグドラシルはカクの豪邸へと向かった。

ショコラはコクピットの中で、大粒の涙を流していた。
まさか自分がこんな無様な負け方をするなんて思ってもいなかったからだ。
自分が今まで歩んできた苦難の修業は、惨めに負ける程度の価値でしかなかったのか?

悔しい。

涙が止まらない。

ショコラは悔しさと自らの弱さに打ちひしがれていた。


***


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」

ケウに続き、カクの悲鳴が木霊する。
ペンネはコクピットの中で緊張していた。
ワッフルに続き、ショコラまでもが倒されたとなると、流石に余裕ではいられなくなる。
今度はリーダーか、それとも自分か・・・。

「はあ・・・、はあ・・・。落ち着け・・・。落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け自分!!気を・・・、気を落ち着かせるのよ!!」

ペンネはそう自分に言い聞かせるが、全く落ち着かない。
ペンネはなんとか気を落ち着かせようと、ドリンクゼリーを飲み干した。

「ふう・・・。少しは落ち着いたみたいね・・・」

ペンネが額の汗を拭ったその瞬間、ユグドラシルが現れた。
ペンネは自分の部隊のメンバーに通信を入れる。

「皆!敵が来たわ!!いっせいにかか・・・」

ペンネが言い終わらないうちに、メンバーはユグドラシルに戦闘不能にされてしまった。

「そんな・・・、たった一瞬で・・・?」

ペンネは一瞬の出来事に驚愕した。
まさか、自分のメンバーがこんな一瞬で倒されてしまうなんて!?
だが、ここでおめおめとやられるわけにはいかない!
ペンネのストライクダガーはビームサーベルを抜くと、そのままユグドラシルに向かっていった。

「ええい!くらえ!ユグドラシルのパイロット!!」

ペンネのストライクダガーはビームサーベルを振り回し、ユグドラシルに斬りかかるが、ユグドラシルの肩部隠し腕小型ビームソードでたちまち防御されてしまう。
カズナはペンネに対して言った。

「けっ!ビームサーベルをブンブン振り回しても、防御されるだけだってのに・・・。てめえは本当にMSのパイロットなのかってんだ!」

ユグドラシルはペンネのストライクダガーからビームサーベルを奪い取り、地面に捨てた。
ペンネはまずいと思い、ユグドラシルから距離をとった。

「ふ、ふ〜ん・・・、なかなかやるわね・・・。だけど、これならどう!?」

ペンネのストライクダガーは、両腕に装備されている小型の針状の兵器『飛雷針』を、ユグドラシルに向かって飛ばした。
ユグドラシルはウルドソードとベルダンディーを使って飛雷針を防ぐが、
右肩に飛雷針が刺さってしまった。

「おっと、刺さっちまったか。けどこの程度なら、後で直せば大丈夫だな」

カズナは大したことは無いなと思っていたが、ペンネはニヤリと笑った。

「かかったわね!喰らえ!!スパークニードル!!!!」

ペンネはコクピットの右にあるボタンを押した。
ユグドラシルの右肩に刺さった飛雷針から、電流が走る!!

「うわあああ!!」
「やったやった!!どんな新型MSでも、高圧電流には耐えられないわ!!」

ペンネのストライクダガーの恐ろしい所はここである。
この『飛雷針』という武器は、マスカレードのメンバーの一人である『タオ・アンキ』が試作試験用として開発した兵器である。
最初は敵に「大したことは無いじゃん」と油断させたその後に、コクピットに内蔵された電流発生ボタンを押す。
すると、敵のMSに刺さった飛雷針から、高圧電流が流れるという仕組みになっている。
ペンネは数々の戦いを、この飛雷針で切り抜けたのである。

「これであんたも終わりよ!!」

ペンネは自分の勝利を確信していた。
だが、ユグドラシルはペンネのストライクダガーに向かって歩いていた。

「・・・へっ?どういうこと?」

ペンネがこう不思議に思っていると、カズナがペンネに言った。

「成程・・・。敵に油断させた後で、高圧電流を流すとは・・・、大した仕掛けだぜ・・・。だが、相手が悪かったな!!」

そう、カズナはユグドラシルを無理やりに動かしていたのだ!
ペンネは驚きを隠せなかった。
まさか、高圧電流に耐えて操縦する人間がいたなんて!?

「ま、まずい・・・」

ペンネはこのままではやられると思った。
ペンネはカズナに言った。

「あ、あの・・・、この後、どうするつもりで・・・?」
「決まってるだろ・・・?この針をテメエのMSに味あわせてやるんだ、よぉ!!」

ユグドラシルは右肩に刺さっている飛雷針を抜き、それをペンネのストライクダガーの頭部に刺した。
ペンネのストライクダガーに高圧の電流が走る!!

「きゃああああああああああ!!!!!!」

ペンネのストライクダガーは高圧電流により、ショートしてしまった。
コクピットにいるペンネも気絶した。

「ヘン!自分の兵器の味は美味かったか?」

カズナは気絶しているペンネに言うと、マカダミアンの豪邸に向かっていった。


***


「ワッフルもショコラもペンネも倒され・・・、残るは私の部隊のみ・・・」

ルネはコクピットの中で目頭を押さえながら言った。
ルネのストライクダガーは赤紫色に染まっていて、腰には二本の短剣が装備されていた。

「それにしても・・・、マスカレードのメンバーをここまで追い詰めるなんて、ユグドラシルを盗んだ少女は、もしかしたらMS技術について詳しいのかしら・・・?」

ルネは頭の中でそう思考する。
MSに詳しい人間、ということはおそらく三つの説に分類される。


一つ目は、元地球連合の女性兵士。
二つ目は、元ザフト軍の女性兵士。
そして三つ目は、ジャンク屋組合の者。


一つ目の元地球連合の兵士という説は可能性としてはありえる。
地球連合のやり方に怒りを覚え、ユグドラシルを盗み、反抗に及んだ、ということなら納得がいく。

しかし、MSを盗んだ少女の年齢は15,6歳だ。
地球連合にいたとするのなら、軍属にいた時の年齢は9〜13歳ということになる。

どう考えても、そんな年齢に軍に配属する軍人がいるだろうか?
元地球連合の兵士という説は否定される。


二つ目の元ザフト兵というのも、完全にありえない。
理由は地球連合の兵士説でも書いてあるのもあるが、ナチュラルの作ったMSを盗むなんて、コーディネイターの思考として考えれば、地球連合のMSを盗もうなどとは思わないだろう。

コーディネイターの中にはナチュラルを蔑視している者もいるのだから、わざわざ自分達が嫌っているナチュラルの技術が作ったMSなんて乗りたいとは思わないだろう。
元ザフト兵の説もここで否定される。


そして三つ目のジャンク屋組合の者という説も納得がいかない。
ジャンク屋組合はマルキオ導師が発足した組織だ。
その組織がジャンクでもないMSを、自らの危険を冒して手に入れようと思うだろうか?
自分がジャンク屋だったらそんな事はしない。

それに、もし盗んで、こんな騒動を起こしたら、一気にジャンク屋組合の信用はがた落ちだ。
たちまち地球連合の目の敵にされてしまうだろう。
やはりこの説も否定しなければならないのか・・・?


ルネがこう考えていると、ウェンディゴの方から通信が入った。
ウェンディゴのパイロットの男性は、目が恐ろしいほどに充血していて、髪の色はカスタードクリームのような色。
年齢は20代後半といったところか。

『よお、傭兵さんよ!』
「あ、あんたは、ウェンディゴのパイロット・・・?」
『ああ。名前はヘイゼル・ゲーリング。地球連合軍第81独立機動群、通称「ファントムペイン」少佐だ」
「ファントムペイン・・・?初めて聴く部隊ね・・・」
『ははは、そりゃそうだろうぜ。傭兵さんよ。なんたってファントムペインは非公認の特殊部隊なんだからよ!』
「えっ・・・?どういうことなの?」
『それはだな・・・』

ヘイゼルという名の男は、ルネにファントムペインの詳細を教えた。

ファントムペインとは、ブルーコスモスの最高意思決定機関「ロゴス」に所属する不正特殊部隊である。
この部隊は、ブルーコスモスが私的理由で編成した集団である。

何でも、今まで武力行使には地球連合軍に依存せざるを得なかったブルーコスモスが、自分達の意思を直接に体現することを目的として生み出したとのことらしい。
ファントムペインの組織の母体は、地球連合軍の人員、機材によって構成されている。
地球連合軍上層部からは、

『ファントムペインから人員などの提供を要求されたら、速やかにコレに応じなければならない』

という、非公式であるが抗い難い通達が発せられているのだという。
そのためファントムペインは行く先々で無制限の提供などを受けることが出来るとのことらしい。
しかし、この部隊に対して指揮権を持つのはロゴスと、そのロゴスを代表した人物のみ。
そして、ファントムペインの詳細について知る者は、立った一握りしかいないのだという。

「成程・・・、あんたはそのロゴスのメンバーの命令に従って、ここへ来たというわけね」
『その通り。まあ俺に取っちゃロゴスやブルーコスモスが何考えていようと、どうでもいいんだけどね・・・』
「ふーん。・・・で、あんたは傭兵である私に自分の部隊のことをぺらぺら喋っていいの?そして何でそんなに詳しいわけ?」

ルネの質問に対して、ヘイゼルはへらへらと笑いながら答えた。

『ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ。どうせシャムシエルには聴こえて無いんだ。それに俺は傭兵に話しているんだぜ?
ザフトならともかくとして、どこの部隊にも所属しない傭兵さんになら喋っても別にいいだろ?
そして何でこの俺が自分の部隊について詳しいかというと、頭の弱いガキの兵士とは違って、俺は少佐だぜ?自分の部隊の情報はある程度耳に入るのさ〜♪』
「あっそ・・・。本当にあんたは楽天的ね」
『まあな、はっはっはっは』

ヘイゼルがこう言ったその時、ユグドラシルが現れた。

「遂に現れたわね・・・!」

ルネのストライクダガーは二本の短剣を抜いて構えた。
すると、ルネのストライクダガーの前に、ウェンディゴが立ちふさがった。

「あんた!?」
『傭兵さんよ。まずは俺があの緑色のMSの相手をするぜ。あんたは自分の部下と共に後ろへ行ってな」
「けど・・・」
『いいから下がってな。俺がやられたらあんたらが出ればいい』

ヘイゼルはウェンディゴを動かすと、ユグドラシルへ向かっていった。

「リーダー、どうします?」

メンバーの一人がルネに言った。

「・・・仕方ないわ。まずあいつに戦いをやらせるわ。もしあいつがやられたら、今度は私達が一斉にかかってユグドラシルを仕留めるわよ!」
「りょ、了解!」

マスカレードのメンバーは後ろへ下がった。


***


ヘイゼルのウェンディゴは、両腕の巨大な剣「カラドボルグ」をユグドラシルに向けた。

『お前か。最近世間を騒がせている緑色のMSのパイロットというのは。残念だが、お前は今日ここで俺に倒される・・・。
光栄に思え!!』
「ヘン!光栄に思いたくないな・・・。オレはまだやることがいっぱいとあるんでね!!」

カズナはそう叫んでユグドラシルを動かすと、ユグドラシルはウルドソードを抜いた。

『成程・・・。実体剣というわけか。面白い!!』

ウェンディゴは二本のカラドボルグを振るう!!
しかしカラドボルグはユグドラシルのウルドソードに防がれた!!

カラドボルグは、ケルト神話に伝えられている闇の帝王、フェルグス・マクローイが使用していた鉄の剣。
その刃の煌きは、息も凍る冬の季節を象徴している。
その剣は今、エスキモーに伝わる寒気の精霊・ウェンディゴの手に渡り、
そのウェンディゴは、三千世界を守る超大樹・ユグドラシルに剣の刃を向けていた。
ノルンの三姉妹の一人である、過去を象徴するウルドはユグドラシルを守るために、手に持っている剣を抜いた!!

ユグドラシルのウルドソードとウェンディゴのカラドボルグはぶつかり合う度に火花を起こす。
二機の新型MSの戦いは激しいものであった。

『ちっ!!このままだと朝になっちまうぜ!!エネルギー砲「スキュラで」仕留めたい所だが、それだと民家に被害が及んじまう・・・!!』

ヘイゼルはなんとかスキュラを使わずに決着をつけようと考えた。
スキュラを使わずに勝つ方法はあるにはあるが、あまり使いたくは無い。
しかし、早く決着をつけるために四の五の言っていられるか!!

『よし!こうなりゃ一か八かだ!見せてやるぜ!俺の取って置きを!!』

ウェンディゴはウルドソードの斬撃を回避し、後ろに下がって距離を置くと、両腕を横に広げて、竜巻のように回転した。

『必殺!!ウェンディゴトルネード!!!!』

竜巻のように回転したウェンディゴは、そのままユグドラシルに突進した。
そう、ヘイゼルはウェンディゴで竜巻を起こしながらユグドラシルを切り刻もうと考えたのだ。
竜巻に巻き込まれながらユグドラシルは、その身をずたずたに切り裂かれる。
そうヘイゼルは考えていた。
しかし、ヘイゼルよりもカズナの方が一枚上手であった。

「成程・・・、竜巻でオレを巻き込んで、MSごとバラバラにしようというわけか。
だが、所詮竜巻は!!!!」

ユグドラシルはブースターを噴射させ、空中へと飛んだ。
そして、竜巻の中心部分にいるウェンディゴの頭部を脚で踏み潰して回転を止めた。

『なっ、なんとぉっ!!』

ヘイゼルが驚いている所に、カズナが通信を入れた。

「なあ、お前?ヘリコプターをどうやって止めるか知ってるか?操縦者を脅して止めさせるとか、打ち落とすとかそういった方法じゃねえ。
答えは、回転しているプロペラの中心部を押さえ込むことだ!!」

ユグドラシルはウェンディゴの頭部から下りると、ウェンディゴの四肢をウルドソードとベルダンディーで切り落とした。

所詮、精霊という下層階級でしかないウェンディゴは、例え闇の帝王の剣を持とうとも、三千世界を守りし超大樹に敵うはずがなかったのだ。

『ははは・・・。竜巻の目に入れば怖くない・・・とわけか・・・。こりゃ完全にやられたな・・・』

ヘイゼルは乾いた笑いを口から漏らした。


***


ルネはヘイゼルが倒されたのを知ると、メンバーに命令した!!

「皆!ユグドラシルを行かせては駄目よ!!一斉に飛び掛って押さえ込むわよ!!」
「了解!!」

ルネ率いるマスカレードの部隊は一斉に飛び出し、ユグドラシルを押さえ込もうとした。
しかし、ユグドラシルはマスカレードのMSを全部蹴飛ばした。
マスカレードはそれでもひるまない。
絶対に捕まえようと、ユグドラシルに立ち向かう。

「しつこいなあ・・・。もう立つんじゃねえよ!!」

ユグドラシルはウルドソードで、前方に立つマスカレードのMS群の脚部を全て切り裂いた。
脚を切られたMSは立つことができない。
カズナはため息をつくと、ルネのストライクダガーを睨みながら言った。

「なあ、そこをどいてくれよ・・・。オレは豪邸にいる奴をぶっ飛ばしに行くんだよ」
「そうはいかないわ!貴方に盗まれた新型MSは、強盗じみたことをするために作られたんじゃない!!」

ルネのストライクダガーは二本の短剣「ヒートナイフ」を抜いて、構えた。
カズナのユグドラシルもウルドソードを抜いて構えた。

「・・・じゃあこのMSは何のために作られた?金持ち共の腹を膨らませるためか!?ああ!?」

ユグドラシルはウルドソードを振り下ろすが、ルネのストライクダガーは二本のヒートナイフを交差させて受け止めた。
ならばとユグドラシルは後ろに引き、肩部隠し腕小型ビームソード「ベルダンディー」を出し、ルネのストライクダガーの四肢を切り刻もうとした。
しかし、ルネのストライクダガーはヒートナイフでベルダンディーを切り落とした。
ルネはカズナの問いに答える。

「長者達の私服を肥やすためじゃない!このMSは人々の幸せを守るために作られたのよ!」
「ヘン!!その人々の幸せを奪ってるのは、金にまみれた馬鹿野郎共だ!!
金持ち共は貧しい人達のことを考えず、自分の財産を増やそうとしか考えてねえ!!
だからオレはこのMSを奪い、飢えと貧しさに苦しむ人々を救うんだ!!
今までも、そしてこれからも!!」

ユグドラシルはウルドソードでルネのストライクダガーのバイザーにひびを入れた。
ルネはすぐにサブセンサーに切り替える。

「長者達を襲わなくても、他に方法はあるはずよ!!」

「他に方法はあったさ!!ジャンクをたくさん集めて金にするという方法がな!!
だが、ジャンク屋組合の奴等は片っ端から金になるジャンクを先取りしていった!!
今でもジャンク屋組合は地球にわんさかといる!!
ジャンクが出てきたらすぐにそいつらが持って行っちまう!!
他にどんな方法があるってんだよ!!」

ユグドラシルと二本のヒートナイフが激しい音を立ててぶつかり合う!!
ルネはカズナの言葉を聴くと、カズナに訊いた。

「貴方!?ジャンク屋だったの!!」
「ああ!!ジャンク屋組合が発足される前からこつこつと働いていたジャンク屋さ!!
それがどうしたぁ!!」

ルネは今まで考えていた説が、微妙であるが当たったと思った。
まさかジャンク屋組合に所属していないジャンク屋だったなんて・・・。
カズナは大声でルネに言う。

「オレの父さんが言っていた!!

『世界は一部の天才が動かすのではない。世界はそこに住んでいる大勢の人々が作り上げるのだ。
一部の天才が世界を牛耳れば、世界は歪んだ方向へと進んで、やがて滅びる。
だからこそ、大勢の人々が貧しさから立ち上がり、世界をいい方向へと進ませなければならない』と!!


今の世界は何だ!?世界は大勢の人々ではなく、一部の天才が世界を牛耳っている!!
一年前の戦いでムルタ・アズラエルとかいう奴とパトリック・ザラとかいう天才共がくたばったかと思ったら、今度はカガリ・ユラ・アスハとギルバート・デュランダルとかいう天才が現れやがった!!
しかもその二人は圧倒的なカリスマ性があるときたもんだ!!

カリスマ性を持った天才は世界を余計に歪ませる!!

そうさ!!ヨーロッパの金持ち共を全員ぶっ飛ばした後、
今度はその二人をを完膚なきまでにギッタギタのメタメタにして、
そしてそいつ等の財産を貧しい人達に分け与えるんだぁ!!」

カズナの言葉を聴いたルネは声を荒げて叫ぶ。

「ふざけるなあ!!長者達を襲った後は政治家を襲う!?
世界を良い方向へ進ませようとしている政治家達を、あんたは信用できないの!?」

「ああ、信用できねえな!!カガリとデュランダルが必ずしも世界を平和にしようとは考えてないかもしれないだろう!?
カガリの頭の中は、自国の理念のことしかないかもしれない!!
デュランダルの頭の中は、自分の自己満足のプランのことしかないかもしれない!!
天才と呼ばれる奴やカリスマ性を持ってる奴は、絶対にそんな考えしか持ってない人間の可能性が高い!!
そんな奴等を信じられるかぁ!!」

ユグドラシルのウルドソードとルネのストライクダガーのヒートナイフの鍔迫り合いが続く!!
ルネは怒りのあまり、カズナにこう叫ぶ!

「・・・いい加減にしなさいよ!!あんたは自分のやってることが正義だとでも言いたいの!?
金持ち達を襲って、貧しい人にお金をあげて、それで満足してるわけ!?
あんたのやってることは悪よ!悪そのものよ!!」


ルネはこう叫んだ瞬間、自分が持つ信念を思い出した。

そう、この世に絶対なる正義も、絶対悪も存在しない。

それぞれの考えや思想がぶつかり合うだけだと。

ルネが考えていた信念は、さっきの言葉と、カズナの言葉で、脆くも崩れ去ることとなった。


「自分のやってることが正義・・・?オレは別に自分のやってることが正義だとは思っちゃいねえよ。
只、飢えや戦争で苦しむ人達を救いたい。そう思って、闘っているだけさ!!!!」

ユグドラシルは赤紫のストライクダガーの頭部と四肢を、ウルドソードでバラバラに切り落とした。

赤紫のストライクダガーは、超大樹にその無様な姿を晒した。

カズナはルネに止めの言葉を言った。

「大体、自分がやってることが正義だと思ってるのは、実はテメエ自身なんじゃねえのか?
例え意識してなくても、心のどこかでそう思ってるんじゃねえのか?人のこと言えねえぜ」

カズナはそう言うと、ユグドラシルから降りて、シャムシエルの豪邸へ向かった。


***


ルネはカズナの言うとおりだと感じた。
自分はあまりにも感情を抑えきれずに、緑の髪の少女を悪と呼んでしまった。
この世に正義も悪も無いといったのは誰だ?
自分自身だろ?
そうだ。
自分は無意識のうちに自分が正義と思い込んでいたのだ。
本当に情けないことだ。
自分が持ってた信念を、自分から否定してしまうなんて・・・。

だけど・・・、緑の髪の少女がやってることは絶対に間違っている。
飢えに苦しむ人達を救いたいなら、ジャンク屋としての活動や、
こんな大騒動を起こすことよりも、もっと他の方法があるはずだ。
たとえ自分の信念が崩れようとも、あの緑の髪の少女を止めなくてはならない。

ルネはコクピットから降りると、カズナの後を追った。


***


「そ・・・、そんな・・・。ウェンディゴが・・・、あの傭兵部隊が・・・、全滅・・・?」

シャムシエルは外でウェンディゴと傭兵部隊のMSが倒されているのを窓から覗いていた。
まずい。
非常にまずい。
このままでは、私があの緑のMSのパイロットに・・・。

「ひ・・・、ひい・・・、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!?」

シャムシエルは恐怖に駆られ、急いで豪邸から逃げようとした。
しかし、緑の髪の少女は自分の部屋に入っていた。
緑の髪の少女はシャムシエルを睨みつけて言った。

「よお・・・。仕置きに来たぜ・・・。覚悟はいいか・・・」
「く・・、来るな、来るなあ、来るなああああああああああああああ!!!!」

シャムシエルは部屋にある本や花瓶、テーブルにおいてあったワインのビンや椅子などをカズナに投げつけた。
カズナは次々と飛んでくる物をかわしながら、シャムシエルに近づいてくる。

「見苦しいぜ?金持ちさんよ?」

カズナは薄ら笑いをしながら言った。
シャムシエルは次第に追い詰められていく。
シャムシエルはとっさに机の引き出しから拳銃を出し、それをカズナに向けた。

「来るな!く、来ると、う・・・、撃つわよ!」
「・・・やってみな」

カズナはシャムシエルに一歩近づいた。

「近づいたわね・・・、死ねえ!!」

シャムシエルは拳銃の引き金を引こうとした。
しかし、カズナが瞬時にシャムシエルに近づき、拳銃は奪い取られてしまった。
カズナは拳銃を窓に投げつけた。
窓は粉々になって砕け散った。
シャムシエルは思わずその場に座り込んでしまった。
カズナはさらにシャムシエルに近づいた。

「い、いやだ・・・。こないで・・・、来ないでえ!!」

シャムシエルは半泣きしながらカズナに叫ぶが、カズナは、

「来ないでといわれて来ない奴が普通いるか?いないだろ?」

と言って退けた。

「わ、わたしが・・・、一体何をしたって言うのよ!?何も罪に問われるようなことはしていないじゃない!!」

「・・・てめえは自分の私服を肥やし、さらに地球に住んでいる何の罪も無いコーディネイターを抹殺するために、大量の兵器を買って、その兵器で大勢のコーディネイター達を殺した!!
そのおかげでコーディネイターを親に持つ子供達や、てめえの兵器の攻撃の巻き添えになった家族達は家を失い、飢えと貧しさに苦しんでいる・・・。
てめえのやったことは、パリ中で広まっているんだよ!!」

「な・・・何よ!!私は自然の法則に反する「コーディネイター」という名の化け物共を駆逐してるんじゃない!!
私はいわば地球の英雄よ!?青き清浄なる世界の為に、コーディネイターどもを皆殺しにすることのどこが悪いのよ!?
コーディネイターはこの世界を汚すゴミよ!!害虫よ!!
私は悪くない!!私は化け物共を退治している英雄よ!!コーディネイターなんか、この世からいなくなっちゃえばいいのよ!!」

シャムシエルは涙を流しながらカズナに叫んだ。
カズナは黙ったまま、シャムシエルの胸倉を掴み、シャムシエルの頬に強く平手打ちをした。

「!!・・・・・・痛い、痛い、痛あぁい・・・」
「そうか・・・、要するに青き清浄なる世界のためなら、飢えに苦しむ人達は死んでも構わないというわけか・・・」

カズナはさらにシャムシエルに平手打ちを食らわす。
乾いた音が部屋中に響く。

「・・・お願い・・・、止めて・・・、痛い・・・、痛いのぉ・・・」

シャムシエルの頬は赤くなり、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
カズナは恐ろしい形相でシャムシエルを睨みつける。

「ひいっ!!!!」
「てめえは他の金持ち共に食らわした分じゃすまさねえ・・・!!
てめえは「青き清浄なる世界の為に」とかいう勝手な正義のために殺された人達や
飢えに苦しんでいる人達の分まで、その痛みと苦しみを思い知らせてやる!!!!」

カズナは血が出るまで握り締めた拳を、シャムシエルに振り上げた。

「生き地獄を味わえ!!!!クリネ・シャムシエル!!!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

カズナが拳を振り下ろそうとした瞬間、その拳はルネの手によって止められた。
カズナはルネの方に目を向ける。

「てめえ、邪魔するなあ!!」
「もうやめなさい。緑の髪の少女。シャムシエルはもうイヤというほど生き地獄を味わったわ。
もうコレでいいはずよ。見てみなさい」

ルネがそう言うと、カズナはシャムシエルを見た。
シャムシエルは歯をカチカチと震わせながら、瞳を閉じながら涙を流している。

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだ・・・、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて・・・・・・・・・・、
お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さん・・・・・・・・!!!!」

カズナはそんなシャムシエルを見て哀れに感じた。
しかし、カズナとしては釈然としない。

「だがコイツは人としていけないことをやった!!もっと生き地獄を与えてやらなきゃ気がすまねぇ!!!!」

ルネはため息をつくと、カズナに言った。

「あんたの目的は金持ちの財産を奪って、貧しい子供達にお金を分け与えることでしょ?
さっさと子供達にお金を分け与えたらどう?」
「・・・?だが、お前等は俺を捕まえようとしてるんだろ?」
「・・・MSが壊れちゃったから、あのMSを持っていくのは無理よ。それに、あんたを捕まえるのはいつだっていいわけだし。
それに・・・、今回は自分を見つめなおすいい機会になったから・・・。そこのところは感謝してるんだから・・・」

ルネはカズナにそう言うと、カズナはシャムシエルの胸倉を掴んでいた手を離した。

「しょうがねえ。今回はコイツをぶっ飛ばさないでおくか。なんか見てて哀れに感じたぜ」

カズナはそう言うと、ガラスが割れた窓から外へ出ようとすると、ルネに言った。

「おい、赤紫の髪の傭兵!お前の名前はなんていう?」
「私はルネ・フィラデルフィア。傭兵部隊・マスカレードのリーダーよ」
「そうか・・・。オレはカズナ・キムラ。はぐれジャンク屋をして生活している。
今回はお前に免じてそいつはぶっ飛ばさないで置く。
だが、勘違いするな!オレは貧しい子供達を救うために金持ち共をぶっ飛ばす!
オレはどんなことがあろうとも、このやり方を貫き通す!!
そんじゃあ、縁が会ったらまた会おうぜ!あばよ!!」

カズナは窓から飛び降りてユグドラシルに乗ると、月夜の彼方へと去っていった。
ルネは深いため息をついた。

「はあ・・・。今回はマスカレードの完全敗北ね。早くMSを直さなくちゃ・・・」

ルネは携帯電話を取り出すと、電話番号をかけた。

「もしもし、タオいる?」
『ハイ!リーダー!久しぶりアルね!』
「タオ、今どこにいるの?」
『ハイな!今ワタシスカンジナビア王国にいるアルよ!』
「そう、丁度良かったわ!今すぐにフランスのパリに来てくれない?MSが破損しちゃったのよ」
『了解アル!!』


***


翌日、マスカレードのMSはスカンジナビア王国から駆けつけた、タオ・アンキの手によってある程度直された。
タオはマスカレード唯一の技術屋で、ワッフルのストライクダガーのヒートサイス、ペンネのストライクダガーの飛雷針を開発したのも彼女である。
タオはルネ達に文句を言っていた。

「全く、どうやればこんなに壊れるネ!?頭部も四肢も斬られてしまったMSばっかりアルよ!」
「本当にごめんなさい・・・」

ルネはタオに土下座をして謝った。
タオは深いため息をつくと、ルネに言った。

「まあ良いアル・・・。ある程度は直したし・・・。でもリーダーとワッフルとショコラのMSは完全に大破しているからもう直せないアルよ!?
はあ・・・、一体どうすればいいか・・・」

タオがそう悩んでいた時、ルネの携帯電話が鳴った。
ルネは携帯電話のボタンを押した。

「もしもし、ルネ・フィラデルフィアです」
『ああ。君か・・・。久しぶりですね・・・』
「その声は、クリケット博士ですか!?」
『ああ、そうだ。どうだね?ユグドラシルは取り戻したかね?』
「・・・いえ。申し訳ございません。取り逃がしてしまいました」
『いや、いいんだよ。もう君達はユグドラシルを追わなくてもいいのだから・・・』

クリケットの声は悲しみに打ちひしがれた声であった。
ルネはクリケットに訊いた。

「・・・?一体どういうことですか?」
『いやね。私はMS開発から負われる事となったんだよ』
「えっ!?どういうことなんですか!?」

『実は、ユグドラシルが完成したその後に、アドゥカーフ・メカ・インダストリーという軍事企業が、大型MAというものを開発したんだよ。
地球連合の上層部はその大型MAに目が入ってしまってね・・・。
上層部は「大型MAがあるんだから、新型MSなんか開発しなくてもいいや!どうせ量産型MSを発展させれば、戦いには困らないし」という楽観的な結論を出してしまったのだよ。そのため私はMS開発メンバーから追い出されてしまったのだ・・・・』

「そうなんですか・・・」
『ああ。だからもうユグドラシルを追わなくてもいい。所詮、大型MAが開発された時点で新型MSの時代は終わったのだ・・・』

クリケットの声はまるで泣いているかのようであった。

「そうですか・・・。とりあえず、元気を出してください」
『ああ。とりあえず別の所でがんばってみるよ。それでは、どこかでまた会おう』

クリケットとの会話はそこで終わった。
タオがルネに訊いた。

「リーダー?さっきの電話、なんていう人だったアルか?」
「・・・元依頼人」

ルネはそう言って、携帯電話をしまった。

こうしてマスカレードの今回の任務は、マスカレードの完全敗北と、クリケットがMS開発から追い出されたことにより、失敗に終わった。


***


そして、月日は流れ、C・E73年。

この年に起こったBTWブレイク・ザ・ワールド事件がきっかけで、再び戦争が起こるようになった。
私達、マスカレードの部隊も、地球連合やザフトの依頼が大量に来るようになってからは、大忙しであった。
この年には色々な戦いや出来事があった。
ガルナハンの戦い・・・。

クレタ島沖の戦い・・・。

デュランダルのロゴス打倒宣言・・・。

オペレーション・ラグナロク・・・。

ヘブンス・ベース侵攻戦・・・。

オペレーション・フューリー・・・。

メサイヤ宙域攻防戦・・・。

そして、終戦・・・。

勝利したのは地球連合でもなく、ザフトでもなく、クライン派・オーブ混成軍の者達であった。

メサイヤ攻防戦でデュランダルは戦死。
デュランダルを失ったザフト軍は、ラクス・クラインの呼びかけで戦闘を停止した。
その後、プラント代表のルイーズ・ライトナーはオーブ代表のカガリ・ユラ・アスハと終戦協定の和議を結んだ。

結局世界はカズナの言葉を借りて言うならば、カリスマ性を持った一部の天才が治めるようになってしまった。

別に私はラクスとカガリが嫌いなわけではない。
ラクスとカガリの抱く思いがあれば、デュランダルの抱く思いがある。
その思いが自分にとって一番であるならば、それでいい。

私はかつてのユグドラシルとの戦いで、それを見つめなおすことが出来た。
だから私はラクスを非難しないし、デュランダルが悪かったとも言わない。
ただ、心残りなのは、あの豪邸襲撃事件以来、カズナは私達の前に姿を現してはいない。
もし、カガリやラクス、その他の政治家達が、貧しい人々をないがしろにして、自分達のためだけの政治を行ってしまったら・・・?

その時、カズナは私達の前に姿を現すだろうか?

そんな政治を行うわけが無いと思うだろうが、未だ一部の地域が混乱しているということを考えると、そう思わずにいられない。

カズナ・・・。

貴方はどこで何をしているの・・・?

私は壮大に広がる雲ひとつなき青空を見ながらそう思った。



***



壮大に広がる雲ひとつなき青空を見ながら、緑の髪の少女は砂ぼこりが舞う街を、外套を纏いながら歩いていた。

「ルネ・・・。言っただろ?世界は歪んだ方向へと進んでるって・・・」

カズナはこう独り言を言いながら街を歩く。
街は様々な出店があり、一見、復興しているように見えるが、
街の裏側を歩けば、飢えに苦しむ人達がぼろぼろの布を敷きながら寝ている。
カズナは街で買った食べ物とお金をその人達に分け与えた。

「やさしいお嬢さん・・・、ありがとう・・・」

よほど飢えていたのだろうか、食べ物をお金を貰った人はカズナにお礼を言った。
カズナは少女特有の明るい笑顔を見せて、その場を後にした。

カズナは戦争が終結したことを街頭のTVで知った。
勝ったのは地球連合でもなく、ザフトでもなく、クライン派・オーブ混成軍・・・。

「ヘン!・・・結局クライン派とオーブの連中が、漁夫の利をとったというわけか・・・」

カズナはオーブ代表のカガリとラクスは信用ならない存在だと感じた。
カガリとラクスは両方とも圧倒的なカリスマ性を持つ。
そのため、人々からは絶大な支持を受けている。

だが、このカガリとラクスは、目の前で飢えに苦しんでいる人達に、救いの手を差し伸べてやることが出来るだろうか?
認めたくないが、デュランダルは貧しい人達に手を差し伸べてきた。
やり方は間違っていたにしろ、彼は戦争で苦しんでいる人達を救おうとしていた。

だが、あの二人はどうだ?
カガリとラクスはデュランダルのように、お腹を空かしている子供達に、食べ物をくれることができるか?
戦争で家を職を失った人達に、ちゃんとした職業を与えてやることが出来るか?
もし、あの二人が自分達のための政治を行い、貧しさに苦しんでいる人達をさらに苦しめるようなことをしたら・・・。

オレは再びユグドラシルに乗って現れ、また金持ち共を襲ってやる!!
その時は、ルネ、お前らも現れるのかな?
現れたら、今度は手を組みたいな・・・。

カズナはそう思いながら街を歩いてると、後ろから誰かがついてくるのを感じた。
後ろを振り返ると、そこには、水色の長い髪に赤い瞳の幼い女の子がいた。
女の子が着ている服は、ぼろぼろの布切れだ。
女の子はカズナに抱きついた。

「お姉ちゃん・・・、一人に・・・、しないで・・・」

カズナはその女の子の瞳を見る。
女の子は「自分は戦争で家族を失った」と瞳で訴えていた。

もう、一人ぼっちはイヤだ・・・。
一人にしないで、お姉ちゃん・・・。

カズナは女の子の体を抱き寄せた。

「よしよし。もう大丈夫だ。オレはどこにもいかねえよ」

カズナは女の子の体を抱きかかえた。

「なあ、お前の名前はなんていうんだ?」
「ハルナ・・・」
「ハルナか・・・。いい名前だな・・・、ハハハ・・・」

カズナはハルナという名の少女と共に、街を出た。


その後、緑の髪の少女を見たものはいない。
緑の髪の少女とユグドラシルが一体どこへ行ったのか、知る者はいない・・・。


≪-マスカレード〜三千世界超大樹〜- 〜完〜≫


[あとがき]

どうも、天空星です。
やっと最終話を書き終えました〜!!

今回ルネはカズナに負けてしまいましたが、ルネにとってカズナとの戦いは、自分の信念を見つめなおすいい機会になったようです。
それにしてもシャムシエルを書いていくうちに、彼女は本当に哀れだなと感じました。
結局、大型MAの登場により、ユグドラシルは開発されなくなってしまいました。
もしルネ達がユグドラシルを奪還していたら、種デスの戦いはどうなっていたのだろうと、思いを馳せてしまいます。

最後まで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございます!