PHASE-01 緑色の髪の少女

これは、C・E72年、終戦から数ヶ月経った頃の物語である。

ザフトと地球連合との壮絶な殲滅戦争が終わりを告げ、人々は自分達の住む土地を復興しようと必死だった。

しかし、あの戦争で使用されたMSの開発は止まらなかった。

MSは作業用としてでも役に立つし、戦争の兵器としても大いに活躍できる。

そんなわけで、地球の機械工学専門の科学者達は、やれ新たなMSを造れ、やれあちらのMSよりもいいものを開発しろと、目を血走らせて企業や軍にMSを造らせていた。

これはそんな地球で起こった、誰にも語られることの無い話である。



ルーマニア 地球連合・MS開発所。
ここのMS開発者であるクリケット・キーネンは、自分が手がけたMSを眺めていた。
彼の前にそびえたつMSは、緑色のカラーリングをしていた。

「ふふふふ・・・、遂に完成したぞ!これぞ新たな世界の歴史を作り上げる最強のMS、ユグドラシル!
これを地球連合の上層部のオイボレ共に見せれば、地球連合はどんな敵にも負けぬ最強の軍となる!!
そして、俺は一躍、世界にその名を馳せることになるのだ!はっはっはっはっは!!」

クリケットは上を向きながら高笑いをしていた。
と、その時、緊急事態を知らせるサイレンが鳴った。

「な、なんだ!?一体どうしたというのだ!?」
『エマージェンシー、エマージェンシー!MS開発所に不審人物が侵入!エマージェンシー、エマージェンシー!MS開発所に不審人物が侵入!』

クリケットは緊急事態の放送を聴きながら、冷や汗をかいた。

まさか、ここで開発されたこのMSのことを何者かが嗅ぎつけたのか!?
だが、このMSはまだ世間に公表していない!
一体、誰がここのことを漏らしたのだ!?

クリケットはそう思いながら、開発したてのユグドラシルを守ろうと、コクピットの中に入った。

そうさ、コクピットの中に入ってしまえば、盗まれることはまず無い。
侵入者がコクピットを空けたその瞬間を狙って、その侵入者を捕まえる。
我ながらいい作戦だ!

クリケットがそう考えて含み笑いをしていると、彼の予想通り、侵入者はやってきた。

「ほほう・・・、あの警備システムを突破してくるとは・・・。並みの腕では無いな・・・」

クリケットは侵入者の顔を見たいと思い、モニターをオンにした。
侵入者は、なんと年端もいかない少女であった!
緑色の髪に鼻眼鏡をかけ、緑色のTシャツにジーンズを履いた、侵入者らしからぬ格好だ!

「ふははは、何と侵入者の正体が少女だとは・・・、我々地球連合も舐められたもんだ!」

クリケットはコクピットの中で大笑いをした。
少女はクリケットの予想通りはしごを使って、コクピットの所へやってきた。

今だ!!

クリケットはコクピットを開き、少女を捕らえようとした。

だが、少女は瞬時にクリケットの腹部に拳打を入れた。

「ぐお・・・っ!?」

馬鹿な!?
たった一瞬で俺の腹にパンチを入れるだと!?

クリケットは白目を剥いて気絶した。

「悪いな。このMSは頂いていくぜ!あばよ!!」

緑の髪の少女はそう言うと、クリケットをはしごの上に置いた後、コクピットに乗り、そのままMS開発所を飛び立っていった・・・。


***


数日後・・・。

クリケットは部屋に赤紫の長髪の女性を招いていた。
赤紫の髪の女性は両腰に短剣を差している。
女性はクリケットに訊いた。

「で、私をここに呼んだのはどういう用件で?」
「それなのだが、わたしのMS開発所からMSが一体盗まれてしまったのだ」

クリケットはそう言うと、MSの設計図を赤紫の髪の女性に見せた。

「形式番号GAT−X096・ユグドラシル。わたしが設計・開発した、まだどこにも見せていないMSだ。腰には高熱斬機剣「ウルドソード」を引っさげ、
膝には貫通回転ドリル「スクルド」を、肩部には隠し腕小型ビームソード「ベルダンディー」を装備しております。
このMSはかつてヘリオポリスで開発された5機のMSを遥かに上回るMSであります。そのMSをあの小娘が盗み出してしまったのです!」
「それで?その盗んだ少女ってのはどういう格好をしているの?」
「ああ、髪は緑色で鼻眼鏡をかけ、緑のTシャツにジーンズという服装だった。年齢はおそらく15,6歳ぐらいだと思う・・・・」

赤紫の女性は深いため息をつくと、クリケットにこう言った。

「・・・要するに、このユグドラシルというMSとこれを盗んだ少女をここに連れ戻せってこと?」
「ああ。報酬はいくらでも出す!頼む!あれが世に出回れば、ユグドラシルのデータが流れてしまう!」

クリケットは土下座をして女性に言った。
女性はクリケットを見つめて言った。

「わかったわ。ユグドラシルはこのルネ・フィラデルフィアが取り戻して見せるわ!」


***


「・・・とは言ったものの、その緑の髪の少女とユグドラシルはどこにいるんだか・・・」

ルネは傭兵として依頼を受けたのはいいが、緑色の髪の少女がどこにいるのかが分からない。
果たして一体どこにいるのか・・・。
ルネは国中を巡ってユグドラシルと緑の髪の少女について聞き込み調査をしたが、手がかりは一向につかめない。

「ふう、なかなか手がかりが無いわね・・・。しょうがない。少し休憩するか」

ルネは近くの店でパンと新聞を買い、ベンチで座りながら休憩していた。
彼女がその美しい脚を組み、パンを食べながら新聞を読む姿を男子諸君が見たら、思わず声をかけたくなるだろう。
しかし、彼女に近づいたら最後。
彼女に声をかけた男子諸君は、次の日の朝日を病院で見ることになるだろう。
それほどルネはプライドの高い傭兵なのだ。

傭兵部隊・サーペントテール。
紅蓮の傭兵・レグバ・ジルバ。
傭兵にも様々な種類があれど、ルネはその数ある傭兵の中でも、最も特殊な傭兵だ。
ルネがリーダーとして君臨している傭兵部隊「マスカレード」は、メンバーの九割が女性という華やかな部隊だ。
女性が多い傭兵部隊であるから、女性の隊員は女性としてのプライドが非常に高い。
そのため、ルネや他の女性隊員をナンパしようとすれば、即病院送りにされてしまうのだ。
ちなみにこのマスカレードのメンバーは、月に一回しか集まらない。
それは、このマスカレードという組織のメンバーが、あまりにも多すぎるためである。

「ふーん・・・、オーブ国で民間人がMSに乗って暴走、オーブのエース・蒼き雷が暴走を止める、ねえ・・・。
戦争が終わっても人は争いをやめない、いつになったら平和がやってくるのかしら・・・」

ルネはパンを口の中に入れながら独り言を言うと、新聞の次のページをめくった。
すると、ルネの目に驚愕の記事が飛び込んできた!

『衝撃!緑のMS、ヨーロッパの億万長者達を襲う!!
突如ヨーロッパに現れた謎の緑色のMSは、ヨーロッパで有名な億万長者達の豪邸を次々に襲った。
これまで被害に遭ったのは、ロレッソ・ビールトス、ルード・カルパッチーノ、ツッカ・ジョージ、ファキヴァ・チョーフ、
アイーブ・チャンチャン、カジ・ガランスなどなど、その数はおよそ19名に及ぶ。
緑色のMSは、長者達の豪邸をたった数日で襲撃し、長者達は全員病院に送られた。
そして長者達の持っていた資産は緑色のMSが全て持っていってしまった。
盗まれた資産の行方は分からないが、市民の話によれば、緑色のMSのパイロットは、貧しい生活をしている人々のその資産を分け与えたとのことらしい。
ヨーロッパ中の長者達はいつ自分が狙われるかと恐怖で震えながら、豪邸の警備を厳重にしているという・・・』

「なんてこと・・・、緑色のMSはヨーロッパ方面へ行っていたのね・・・。どおりでルーマニアにはいないわけだわ・・・」

ルネは新聞を急いで畳むと、上着に入れておいた携帯電話を取り出し、急いでヨーロッパにいるメンバーに連絡を入れた。

「もしもし、ペンネいる!?」
『はい、リーダーどうしたんですか?そんなに慌てて』
「急いでヨーロッパ方面にいるメンバーを全員招集して!!理由は後で話すわ!!早く!!」
『は、はい!分かりました!!』

ルネは電話の電源を切ると、急いで付近の森に向かった。
森の中には自分専用のストライクダガーがある。

「ヨーロッパで金持ちの連中を襲ってるですって!?ユグドラシルを盗んだ少女は、弱い人のために戦う正義の味方を気取ってるワケ!?
ふざけるのも体外にしなさいよ!!」

ルネははやる気持ちを抑えることができなかった。
人のことを言えた義理では無いが、MSを盗むということだけでも悪いことだというのに、金持ちの家を襲って、さらにその金持ちを重傷に負わせるなんて、ふざけているにも程がある!
早くユグドラシルを取り戻し、その少女を懲らしめてやらなければ!!
ルネは赤紫のストライクダガーのコクピットに乗り、ペンネのいるフランスへと向かった。


***


緑色の髪の少女は人気の無い空き地で土管に座りながら新聞を読んでいた。
少女は不満そうな顔をして、新聞に書いてある書評を読んでいる。
書評の内容は、先の大戦についてのことであった。

「けっ!何が『種族の垣根を越えて』だ!何が『未来に希望がありますように』だ!
いつ死ぬかも分からない、飢えと貧しさの苦しみに打ちひしがれている人達のことを無視してそんな綺麗事を書いてんじゃねえ!
新聞にそんな戯言を載せてる暇があったら、テメエの持ってる金を貧しい人達に分け与えろってんだ、このニプチンの馬鹿たれめ!!」

緑の髪の少女は新聞をぐしゃぐしゃに丸めながら、顔も知らない者の悪口を大声で言った。

「フンだ!・・・さて、今日も金持ち共の家を襲ってやる。金を大量に持ってるだけで威張り散らしている腹黒のタヌキ共を懲らしめて、貧しい生活をしている人達を救ってやるんだ。
世界は偉そうにふんぞり返ってる金持ち共が作るんじゃねえ!懸命に頑張って生きている人達が作るんだ!!」


緑の髪の少女、カズナ・キムラは、北欧に伝わる大樹の名を冠したMSを見上げながら言った。


≪PHASE-02へ続く≫


[あとがき]

どうも、天空星です。
今回の話で第三作目となるわけですが、今回は女性の傭兵が主人公の物語です。
ユグドラシルという名の一機のMSを巡るこの物語は、ヨーロッパを舞台に繰り広げられます。
はっきり言うと、この物語は女性が大勢登場します。
(もちろん、男性も少々登場しますが)

コレを書いているときに、
「この物語は自分の願望が入っているなあ」
と感じました。
さて、ユグドラシルを巡る物語はどうなるのか、楽しみにしてください!