PHASE-01

〜プラント模擬戦闘用宙域〜

「それでは模擬戦を開始する!!」

ゴングが鳴った。

火器運用試作型ゲイツは一斉にすべての火器を解放する。パワーケーブルで母艦より随時補給を受けているのでジェネレートの核エンジンよりも安定していた。
その代わり、母艦から150Mの範囲内しか移動できず、移動砲台としてジェネレートをロックオンしていた。
ルークは熱源レーダーに目をやる。レプリカブリッツが反応に無い。
それもそのはず、ブリッツは開始直後ミラージュ・コロイドシステムを展開、戦場から姿を消していた。

「厄介だな…とりあえず接近しないことには、どうにもならない……か…」

開幕直後の攻撃を難無く回避したルークは今からどう責めるかを考えていた。ブリッツの位置予測と3機のゲイツの攻撃を回避しながらの接近。頭の中で攻め方は決まった。

フルスロットルで背部のブースターを噴かす。これまでのMSでは到底出せない速度で加速する。ルークにも常人では気を失うほどの衝撃が走っていた。

「ブリッツは近距離に入らない限り攻撃しては来ない…それなら、ゲイツから処理すれば………何ッ!?」

前方を見ると、3機のゲイツのリフターがビームを打ち出してきた。忘れていた。ゲイツには単独で行動できるリフターがあり、本体に帰還すれば再補給が可能だ。接近しない限りやはりこちらに勝機は無い。
リフターとジェネレートはドックファイトに突入していた。追われる形のジェネレート。この宙域には障害物が無いためどうにかしなければならなかった。
振り向いて攻撃するのもあるが、1基に気をとられていては他のリフターから攻撃を受けてしまう。逃げながら考える。すると転機と危機が同時に現れた。
自分が移動する延長線上に、黒い気体がその体を表した。ブリッツが姿を現し、ビームサーベルを振るう。

「これ、マジやんないと………やばいぞ!!」

ルークはやっと本気になった。ジェネレートはビームサーベルをABCシールドで受け流し反対側へ回り込む。


次の瞬間、ブリッツの背部が爆発し爆煙が広がっていた。ビームライフルを構えその下部に備えられていたグレネードランチャーを発射していた。
PS装甲を展開したためバーニア内部が損傷したのみで煙がブリッツを覆うほど拡散、ゲイツのパイロット達は煙でジェネレートを見失い、リフターを旋回させるしかしなかった。

煙を打ち払ったのは、ジェネレートのロケットアンカー「メテオスティンガー」
ブリッツの目の前まで移動していたものを捕獲、こちら側に引き寄せビームサーベルで真っ二つに切り払った。
さらにブリッツを蹴り飛ばしもう1基のリフターにぶつける。

「よし、一気に行くぞ!(視点カメラ変更じゃなくて周囲の映像とか一緒にモニタリングしてくれないかな…)」

ジェネレートの進路はパワーケーブルを備えたゲイツだった。リフターを装備していないため機動力が低下していた。
ビームライフルを連射する。しかし正確な射撃には程遠い、かすりすらしないほどに発射したビームはゲイツからずれていた。

「あいつ、何やってんの……?…………」


『あ!!!!!』

ゴンドワナ級の各機状況モニターなどを見ていたすべての人間が叫んだ。今の戦闘状況を見て。
ソフィアも気付く、ジェネレートがビームライフルを撃った先にあったモノ。それは…

「ドンピシャ!!1本外れたけど、きっちり打ち抜いてやったぜ!」

ゴンドワナの状況モニターに表示されたのは、「YFX-600R-01,02、Power Cable LOST」の文字。
その文字が示すように2機のゲイツが装着していたパワーケーブルをビームで焼き切っていた。

「あんな距離からビームライフルで……ケーブルはライフルと同じ口径ぐらいの太さしか無いのに…(やばいじゃない!このままじゃ本当に無傷で帰ってきちゃう!女装させれないじゃないの!!)」
 

ソフィアはいろんな意味で驚愕していた。いくらルークでもここまで出来るとは思っていなかった。


ケーブルを切断されたゲイツの格闘時間はせいぜい5分足らずだった。パワーゲージがレッドゾーンを越えるとフェイズシフトがダウンし、ほとんどの兵装の使用が限られる。
この状況を作り上げたことによってジェネレートは優勢に立つことが出来たのだった。
ケーブルが切断され、さらにリフターまで失ったゲイツに接近して頭部と左腕、ビームライフルを切断した。

「1つ!」


ジェネレートを思うままに操っていたルークは反転「バラエーナ」を上方に向けて発射。多少のチャージは必要だったがタイムロスなど無いに等しい。





直進する赤白い閃光はパワーケーブルを失ったもう一機のゲイツへと降り注いだ。
シールドを装備しない火器運用試作型ゲイツは、それに対応できず頭部を吹き飛ばされる。

「2つ!……なんかこう……同時ロック、みたいのできないかな…」

アラートが鳴り響く。モニターを向けると自らパワーケーブルを切り離したゲイツがリフターに搭乗、こちらへ突っ込む姿が確認できた。
接近しながらのフルバースト。シールドでガードするがABCがその破壊力に耐え切れず溶解する。シールドをゲイツに投げ飛ばし、さらにビームを数回連射する。
ルークはこれで勝負が終わると思っていたがそううまくは行かなかった。ゲイツはそれらを軌道軸をずらしながら回避、リフターを飛ばしてきた。
飛んできたリフターをビームサーベルで切断、爆発。

再びアラートがコクピットに鳴り響く、気付けば相手はビームサーベルを振り下ろしていた。
ギリギリで回避し反撃を仕掛る。ビームサーベルで突きを繰り出す。相手も同じ動作で切りかかっていた。
ジェネレートのサーベルがゲイツの頭部を貫いていた。だがこちらの左肩アーマーも切断されていた。
ゲイツを全員戦闘不能に追いやった。ジェネレートとルークの戦闘力が叩き出した結果だった。
少し心を落ちつける為に、深呼吸を数回繰り返し行った。

「これで3つ………全部やり終えたけど…なんか忘れてる……何だったっけ?」

三度目の緊急アラートがコクピットに鳴り響く。ジェネレートに向かって「ランサーダート」が全弾降り注ごうとしていた。

「そうだブリッツか。そんな実弾、フェイズシフト装甲が全部………あれ!?…な、ななな!何ィッ!?」

ルークはものすごい形相でパワーゲージをまじまじと見つめた。表示されているのはレッドゾーン突破の報告。
そう、ジェネレートは無理なE供給に耐え切れずさっき核エンジンが停止し充電バッテリーに切り替わっていた。
そのエネルギーも戦闘の爆炎から機体を守るためやビームに使用に消費し、ほとんど使い切ったことに気が回らなかった。
『ピー』という電子音とともにフェイズシフト装甲がダウンし、再び灰色の色に戻る。

「マジ?これってピンチじゃない……?」


………

……




〜プラント基地内ショッピングモール〜

「あは!ルーちゃん似合ってるわよー」

ソフィアはデジカメを片手に連続撮影モードで連写する。

「ううっ!恥ずぃぃ……」





相手はもちろんルーク。ただし服装が普通ではなかった。どこかで見たようなサンタクロース(露出度高)着用し化粧を施されていた。
しかも撮影相手はソフィア1人だけではなく、基地内の女性軍人など数十名その他諸々。絶えずシャッター音が鳴り響く。
いわゆる撮影会。ソフィアが独断で集めたルークのファンクラブ。そんな事ルークはもちろん知らない。

「ルークが悪いんだからね。ジェネレートの左肩と右足、それにシールドぶっ壊しちゃうんだからっ」

「別にシールドはいいだろッ!元々そういう使い方だし!損傷だって最小限に抑えたほうだっ!しかも右足は事故!核がダウンするなんて思わないだろ!?」

「お!その恥らった顔いいねぇ!はいチーズ!(パシャパシャパシャ)」

「聞けよこの鬼!ドS!ドヘンタイっ!!」

「はいはい。苦情は私の弱みを握ってからねー。お、そのポージングの可愛い!スカート抑えてーぇ!」

「いやだぁぁぁぁぁぁっ!」


ルークは、模擬戦のことを思い出す。

こちらへ向かって直撃コースへ進む3連装超高速運動体貫徹弾<ランサーダート>を、噴射剤を使い切ってなんとか回避。
だが回避したつもりだったが、右足を貫かれ爆散させていた。その後残量バッテリーから搾り出したビームライフルで、ブリッツの頭部を狙撃し模擬戦は終幕した。
模擬戦闘終了後、ジェネレートの性能の高さにけっこう満足気味だったのもつかの間、プラントに帰還したと同時にソフィアの言う「罰ゲーム」を慣行されていた。

常軌を逸するその男性が着るにはあまりにも気分の悪い服だったが、自然とルークには似合っていた。
多少化粧はしていたが、その容姿はオトコと言わなければ分からないぐらいの姿だった。


〜数十分後、同所ベンチ〜

「ホント、私の化粧ってすごいわよね〜。股も特注製シリコンで補ってあるし、いや〜、ルーちゃんかわいー!」

「うぅ…汚された……何百枚撮られたんだよ……」

「これでまたHPの画像が増えるわ!アクセス数も順調順調!」

「え?何それ?HP、だってェ!?…オレそんなの聞いてな…」

「あれ?言ってなかったっけ。ルークの女装&コスプレ写真を載せたHP作ってるのよ?そろそろ100万アクセス行くかもね〜」

「ちょっと待てよ!それって、オレって既に全世界のさらし者!?」

「そうよ?お付き合い申し込みのメールなんて何千通来てるか〜。あははー皆分からないのよ。ルークがオトコノコだってことが。びっくりするわよねぇ、一見美少女の正体がとってもかわいー軍人さんなんてー」

「うそ、うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ひでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「その顔も可愛いわねー。あ、気を付けてね、あんまり派手な運動できるほどその服丈夫じゃないから」

ルークはそのサンタ姿のままどこかへ走り去っていった。
デジカメの10Gメモリー片手にいやらしい目つきで何かをたくらむ嬉しそうなソフィアの姿があった。その表情はまさに小悪魔の顔だった。
そしてもう一つ、ソフィアの手の中に数枚の報告書があった。その内容は3種類に区別されていた。

”損害報告書” ”戦闘収集データ” ”ZGMF-X01A パイロット、メカニック配属先”



100Mほど先でルークがいい音をさしてズッこけた姿がソフィアの瞳に映っていた。



≪PHASE-02へ続く≫