PHASE-05 −QUILONG− 魁龍 

赤く、赤く、あたり一面に立ちあがる真紅の火柱。
足元で逃げ惑う無数の悲鳴はその業火にかき消され、東アジアではまだ見慣れる事のない一つ目の鉄巨人達には聞こえないとでも言うのだろうか。

いや、そんな事はなかった。

聞こえない振りをする者。
聞こえながらも敢えてその身を突き動かす者。
それぞれ様々であったが、彼らの想いはたった一つ。

ザフトの・・・祖国プラントのために。



絶対的な戦力差だった。
なのに、何故お前達は抗おうとする?
高々、戦闘機や戦車程度の戦力で、MSの精鋭部隊相手に一体何が出来るというんだ?

その敵地・高雄カオシュンの街は、壮絶なる地獄絵図と化していた。
口火を切ったのは、”一体なんだった”のか。
今ではそう思えてしまうほどの惨状だ。
そして、その一端をつくりあげているのは・・・紛れもなく僕自身。

嘔吐を伴うほどの耐え難い感覚が、まだ戦場に慣れない僕の体の中を稲妻のように突き抜ける。
そんな状態で俯きかけた僕の瞳に一つの光景が飛び込んできた。

「危ないっ!!!」

そう、体が自然に動いたんだ。
気付いた時には、僕はとっさにMSを突き動かして崩れる瓦礫をその巨大な掌で受け止めていた。

そこに立っていたのは、少年と女性の”ようだった”。

寄り添いながらお互いを守るように立ち竦んでいたその二人の手足は、恐怖と動揺からなのか小刻みに震え、その姿は煙と灰ですすけて真っ黒になっている。

・・・姉弟か、恋人同士だろうか。

僕はとっさにMSを使って彼らの行く手をふさぐ瓦礫と炎を切り崩して道を作り、こう叫んだんだ。


「ここから早く逃げろっ!」


2人はまた走り出した。安全な場所を目指して・・・。

僕はザフトの兵士であり、祖国を・・プラントを守るために、戦争を終わらせたい一心で戦っている。

本国を”血のバレンタイン”の二の舞にだけは決してさせはしないと決意して、僕は軍に入ったのだから。
ユニウス・セブン。・・・・あそこには、僕の両親が今でも眠っている。
ちょうどあの時、僕の両親は農業を営んでいた叔父の住むあの食料生産コロニーに招かれていたんだ。
僕だけは工業カレッジのサークル活動を優先してプラント本国に残っていたために助かったのだけれど・・・僕は天涯孤独の身になった。

だから、僕は剣を取って戦う道を自ら選び取ったんだ。
今の僕にたった一つ残された故郷を・・・
父と母の思い出が唯一残っている、あの”母なる砂時計”を守るために・・・。

それ自体は・・・ゆずれない信念であり事実である事には変わらない。
そのために、本国にとって脅威となりうる連合のマスドライバーのあるこの高雄カオシュン基地を制圧しに来ただけだって言うのに・・・。

でも・・・僕達ザフトは・・・僕は、君達の故郷を焼いてしまったんだね・・・・・許せない、よね・・・ごめんね。

「僕は一体、・・・何を!!」

大粒の涙を流しながら、僕はそのやり場のない感情をコクピットに叩きつけていた。
そして、程なくして高雄カオシュン基地は陥落する事となる。


そう・・・あれからもう、2年・・・・。
まさか君が・・・・・・あの時の・・・・。


***


「・・イス!おい、聞いているのか?アロイス!」
「・・・・ん!あ、ああ。すみません、ヘドリックさん。何か御用ですか?」

ドグーのコクピットの中で一人過去の夢想にふけっていたアロイスは、どうやら暫くの間仲間のアッシュから入っていた通信に気付かなかったようであった。

「しっかりしてくれよ、ったく・・・。こっちの方角でいいんだろうな?あんた、この辺の地理を頭に叩き込んでるんだろう?ここ2年間のスパイ活動でよ。」
「ええ、大丈夫ですよ。・・・それと、僕はスパイ活動をしていたわけではないですよ。」

不愉快そうに答えるアロイスに、アッシュのパイロットはどういう事かと聞き返す。

「今そんな事を答えている余裕はないですよ。その証拠に、ほら・・・!」

アロイスの指差す方向を”グングニール”を運搬するアッシュ達のモノアイが一斉に向いた。

天空に聳え立つ巨大な滑走路。
空を照らす無数のサーチライトに照らされたその様は、あたかも旧約聖書にあるバベルの塔の如く異様な雰囲気をかもし出していた。

高雄宇宙港カオシュンマスドライバー。・・・また再び僕が・・・この手で破壊する為にこの場所に訪れる事になるとは・・・。」

アロイスの掠れる様なその小さなつぶやきは、アッシュのパイロット達には届く事はなかった。


***


「終わりだな、小戦士ッ!」

ティエンとゼーヤの死闘は、今正に決着が付こうとしていた。
アウローラの体にはグフから放たれた右腕のヒートロッドが全身に巻きついており、身動きを取る事が出来ない状態だ。

「く、くっそォッ・・!!!こんなものっ!バ、バーニアを吹かして振りほどいてやるっ・・・」
「遅い!そら、散逸しろッ!!ラクス様を冒涜する不届きなナチュラルッ!!!」

グフのヒートロッドがアウローラを破壊せんと真紅の光を放ち始める。


その刹那、2機の間をすり抜ける一匹の猛獣―。


獣の左右に展開されたビームサーベルによって切断された”スレイヤーウィップ”は、首を落された蛇のように力なくアウローラの体からずり落ちる。

その影の方へゼーヤとティエンが眼を向けると、そこには白き鋼鉄の猛虎が威嚇するかのようにその四肢を大地におろして立っていた。
そして、そのまま華麗にMS形態へと変形して戦闘の構えを取る。

「・・・遅く成り済まなかった、ティエンよ。されど、其の身の無事には間に合うたようだ。許せ。」
「ブルースさん!!!来てくれたんですかぁ!!」

魁龍クワイロン”きってのエースパイロット、”獣拳のブルース”の加勢に、ティエンは半泣きになって喜んだ。

「泣いておる暇など皆無也、ティエンよ。話はシャライより聞き及んでおる。お主はドグーを追うがいい。最早一刻の猶予も許されぬ。正に翔ぶが如くぞ、ティエン!」

「でも・・・このピンクのMS、つ、強いですよ?
あっ!!それに・・・僕が壊しちゃったそのバイザー!まだ、直ってないじゃないですか!!」

ティエンが気付いた通り、ワイルドダガーのバイザーは今だその半分が砕けたままで、メインカメラはほとんど機能していなかった。サブカメラを使ってはいるものの、その視界は通常の状態よりも遥かに悪い事は明白だ。

そんな事を歯牙にもかけず、ブルースはアウローラに背を向けてグフに相対するようにして合掌の構えを取り、戦闘前の一礼をする。

「我を侮るな。相対した相手の実力を見抜けぬ我に非ず。むしろ、であるからこそ、我が彼奴を相手に致すと言っておる。
視界が半減しておる事も百も承知也。だが、案ずるな、ティエンよ。

こんな事もあろうかと、我は毎晩闇夜の山中に入って視覚を絶ち、その他の感覚を研ぎ澄ませる修行をしておった!!!

故に、お主は気にせず奴を・・・アロイスを追うべし・・!」

ティエンは仰天する。
あの時、冗談でアロイスと話していた事を、まさか本当にしていただなんて!!

「こんな事もあろうかと」って、そんな想定した事がないよ、姉さん。
・・・でも、普段は変な事を考えている人だと思っていたけど、こんな時だからこそなんて頼りがいのある人なんだろう。

「す、すみません、ブルースさん。僕、行きますね!!!」

ブルースの言葉を聞いてすっかり安心したティエンは、先ほど投げ捨てたシールドを拾い上げてアウローラのバーニアを吹かし、マスドライバーを目指して一目散に低空を翔けて行った。
ドグーを・・・親友であるアロイスが乗るあの鋼鉄の巨人を止めるために。


「・・・さて、そろそろいいかな?そこの”ガイアの出来損ない”のパイロット。」

ティエンが去ったのを確認したゼーヤは待っていたかのようにグフのスレイヤーウィップを赤く染め、ブルースに通信を入れる。
ブルースのワイルドダガーもまた、合掌の構えを崩してカンフースタイルの独特の戦闘体制をとった。

「ほう・・・。ティエンが去るのを待っておったと申すか。お主、中々に粋也。」

「バッキャロウ!お前のような倒しがいのあるヤツが目の前に立ちふさがろうとしているんだ!
しかも、未熟な仲間を先に行かせるためだけに・・・熱い、熱いぞ!
お前のその熱き思いに、このオレが、・・・ここん所よく聞け、気高き”SEED”を持つ者である(自己推定)このオレがッ!!答えないわけにはいかないだろうッ!!?」

「イイ事を言ったなぁ」と一人感動して泣き咽びながら、ゼーヤは続ける。

「しかしッ!!あの未熟な小戦士もオレの熱き血潮を分けた仲間達には到底敵うまい。明らかに機体性能に振り回されているからな。
それに、既に目的のデータ回収は済んでいる。今頃、ライア達が領海外に停泊している小型母艦に向かっているところだ・・・!!」

ゼーヤの言葉は益々熱を帯びてヒートアップしてゆく。

「何より、お前のその機体のバイザーアイの損傷ッ!
さっきのはあの小戦士を心配させないための方便だろう事はわかっている。そう簡単にメインカメラなしでMS戦闘がこなせるはずもない!!

つまりだ!!!!

この戦い、既に勝敗は決まっているッ!!!
今日の手薄な警備ではオレ達を止める事など、最早神でも不可能だゼ!!」

ビシィッと勝ち誇るかのようにワイルドダガーに人差し指を刺すグフだったが、ブルースはただ淡々と涼やかに、その一つ一つを否定する。

「なれば答えよう、暑苦しき者よ。
其の壱。確かにティエンは未熟也。されど、お主が思っているほどに軟弱ではない。お主の仲間が如何に屈強な者なれど、決して引けを取りはせぬ。

其の弐。お主達の回収したデータとやらは、無事母艦にもたらされる事は有り得ぬ。何故ならば、海には”海王妃”がおる故に・・・。

其の参。このバイザーの事ならば、我に気遣いなど無用。むしろ、お主に与える情けと思うがよい。済まぬが”初めから全力で生かせてもらう”也。

そして、其のつい・・・。」


ブルースは言葉を区切り、その眼を大きく見開く。


「如何に今宵の警備が薄くとも、如何に絶望的な状況であろうとも、我らは決して引く事はない。覚えておくがよい、暑苦しき者よ。

我らは”魁龍クワイロン”!

神の使い足る龍の化身。全てに先駆けてこの亜細亜の地を守る荒ぶる龍の群れ也!!」

そう、”魁龍クワイロン”はテストパイロットチーム兼実働部隊。
技術においても、性能においても、戦闘においても・・・東アジアのあらゆる部隊を先駆ける、選ばれた希代のエース集団なのだ。


それを聞いたゼーヤは嬉しそうにニヤリと口元を緩ませ、高笑いをし始める。

「面白いッ!!お前のような高き誇りと自信を持ったヤツを相手に出来るとは。
こちらも望む所だ、”ガイアもどき”・・・いや、獣戦士!!いざ、尋常に勝負!!」
「こちらこそ、見せてくれよう・・・。我が、・・・”真なる獣拳”をなッ・・・!!」

にらみ合うワイルドダガーとグフの周囲には、歴戦の者のみが感じ取る事の出来る目に見えぬ凄まじい闘気が渦巻いていた。


***


海中を進む一つの影。
地球連合軍の海中戦型量産機、ディープフォビドゥンだ。
同型最新機であるフォビドゥンヴォーテクスが開発された今、ディープフォビドゥンは既に旧型の機体であると言えるのだが・・・。

そのディープフォビドゥンのコクピットの中には機嫌を損ねて一人鬱憤をためている少女が搭乗していた。
”絶対に引く事はない”とブルースに言わしめた”魁龍クワイロン”のMSパイロット、アムル・シュプリーである。

「あーーー、もう帰りたいよぉ〜〜!こんなの完っっっっ璧に時間外労働じゃんかぁ〜!特別手当、絶っっ対に老師に貰わなきゃ割に合わないもんっ!!
だってだって、今日に限って海洋警備の主力ヴォーテクス部隊がみんな外洋に合同演習に行ってるとかって、ホント有り得ないしっ!!!」

警備が一番手薄な日を選ぶ。それは海の中も同じである。
いや、海中こそ、孤島であるこの軍事基地から逃げる際に一番の逃げ道となる事をアロイスは見越していたのだろう。
今、まともに海戦が出来る機体はアムルを含めても数機しかおらず、皆それぞれが海洋警備に借り出されていた。
存在するかも定かではない敵の襲撃に備えて、この闇夜に染まった漆黒の海中に、である。

寝起きのアムルはすこぶる機嫌が悪い。
生まれつきの低血圧のためであろう。
しかも、昨夜はシャライに諸々の請求書を渡そうとして、夜遅くまでMSドックやレクリエーションルーム、はたまた彼の自室まで尋ねて必死に探していたのだが結局見つからず、彼女曰く、「ただ働きじゃん」という非常に機嫌の悪い状態のまま床に入ったという事も手伝っていた。

余談ではあるが、シャライはMSドックにかなり長い間潜んでいたらしく、アムルから隠れるのに必死だったらしい。
勿論、それは請求書を貰う事を避けてという訳ではなく、アウローラの極秘操縦練習をしようとしていた事がばれない様にではあるが・・・(しかも、結局、アロイスに見つかってしまうが。)

「その上、私のドグーまで持ってかれちゃうなんてぇ〜〜〜。何?なんで私がこんな目にあうのよぉ〜〜!毎日”こんなに健気に生きてる”のに。神様?ねぇ、なんで?意味わかんないし。」

小悪魔的日常に対する罰なのかなんなのかは定かではないが、アムルは自分の不幸に一人泣きじゃくる。
その時、ディープフォビドゥンのソナーが微弱なる反応を示した。その数”1”。

「お!!ホントに”一機”、み〜〜っけた!なんだ〜、神様、まだ私を見捨ててなかったのね〜。よーしっ、お仕事お仕事っ☆ やっつけて、褒賞たんまりふんだくってやるんだから!!
いっけーーーー、”アンフィトリテ”!!」

アムルはその微弱なレーダー反応の示す海域に向かって愛機であるディープフォビドゥン”アンフィトリテ”を加速させた。


***


奇妙なMA形態をした2機のMSが海中を等速で並走する。
先ほどアロイスからデータを託されたライアとジョーンズのアッシュの姿だ。

「それにしても、怖いくらいにうまくいっちまったねぇ。」
「そ、そうですね。もう少しで東アジアの領海も抜けますし、ここまで来たら一安心ですね、姉御!」

嬉しそうに安堵の声をもらすジョーンズに、ライアは大きくため息を付く。

「はぁ〜、わかってないねぇ、あんた。いいかい?こういう何でもうまく行き過ぎてる時ってのはねぇ、最後に変な落とし穴があったりするもんなのさっ!!
特に・・・あの唐変木の言い出した作戦ってなぁ、必ずといって良いほど吃驚するようなトラブルが起こるんだ。まだまだ気ィ抜くんじゃないよ、ジョーンズ!」

「は、はぁ・・・。姉御の考えすぎじゃあないですか?だって、このアッシュは水中でもレーダー反応をほぼ遮断できる特別仕様ですぜ?
そんな機体がこの速度で移動してるってのに、捉えられる訳が・・・」

ジョーンズの声を遮るようにして、コクピットにアラームが鳴り響く。
ライア達が直ぐさまモニターに眼を移すと、そこには連合軍の水中型MSディープフォビドゥンの熱紋照合が映しだされた。

「え、え、何ででしょうか!!?まさか、最初から付けられていたのか?」
「違うだろうね。・・・!・・・まさか・・・!!!」

何かに気付いたかのようにライアは自機のソナーにもう一度目を移す。
そして、全ての謎が解けた。

「ちっくしょう!!!はめられたっ!!あのアロイスとかいうボウヤ・・・いや、もしかしたらあのボウヤも・・・・なんてこった!!!連合軍めっ!」
「一体、何があったんですか!!?姉御!!???」

頭をかきむしるようなジェスチャーをしながら、ライアは面倒臭そうに説明をし始める。

「あんたの持ってる新型のデータだよっ!!その” アロイスのハンディ量子コンピュータ”に、恐らく発信機が仕掛けられてんだ!!その証拠に、微弱だけどあんたの位置があたしのソナーにもしっかり映ってるっ!!

灯台下暗しだね・・・!
ゼーヤのヤツじゃあるまいし、あたしがバカだった。

あのアロイスってボウヤがはめてくれたのか、それともあのボウヤもはめられていたのかはわかんないけど、とにかくやられたよっ!!!!!」

「なんですって!!!ど、どうしましょう!?」
「どうしましょうって・・・決まってんじゃないか・・・!!!」

そう言うと、ライアのアッシュは高速機動形態からMS形態に変形し、ソナーでその位置を確認しながら、追いすがるディープフォビドゥンに頭部の2連フォノンメーザー砲の照準を合わせて撃ち放つ。

「追ってくるヤツァ、みんなぶっ潰すだけだよォォ!!!!!」

真夜中の海中は、目視などがほとんど届かない漆黒の闇だ。
故に、ライアは敢えてサーチライトを起動させない。
正しくレーダー頼りの先手必勝の闇討ちだ。


ピクっ・・・

「ん、なんか来るっ・・・!」

”アンフィトリテ”のコクピットの中で何かを感じ取ったアムルは、その海中航行軌道を急転させて急浮上し始める。
なんと、”アンフィトリテ”が元いたその場所は、ライアが放ったフォノンメーザー砲の射線軌道上となっていたのだ。

「何だってぇっ?かわした!?あたしのアッシュのフォノンメーザーは、”照準を図るための軌道確認レーザーの照射”はないんだよ?
海中の闇も手伝った私の”完全に目に見えない砲撃”をかわしやがるなんて、どういうヤツだい?アイツ・・・!!!
少なくとも、単なるザコじゃあないって事だね・・・。」

そもそも、フォノンメーザー砲とは水中でその威力を発揮する音波兵器である。音波故、目視での確認は困難である為、照準を合わせて狙い打つ事すら実は難しい代物なのだ。
従って、通常のフォノンメーザー砲はその照準合わせと射線軌道確認を、可視光線をほぼ同時に照射する事で補っている。
そのため、水中ではビームが走るように見えるのだ。

しかし、ライアのアッシュは特別製であり、その可視光線の照射を一切する事なく発射される。
狙いを定める事は非常に難しいが、ライアは何度も何度もその感覚を体に刻み込み、的確な照準をつける事を可能にしていたのだった。


正に、見えない砲撃。
”インビジブル・ハンター”と呼ばれる、彼女の真の実力の一つである。


「あーーー、厄介だっつーの!!おい、ジョーンズ!!あんた先に行かせようと思ったんだけど、気が変わった!!2人掛かりでアイツをぶっ壊すよっ!!」
「了解っ!!」

散開しながら”アンフィトリテ”の周りを手探りで旋回するアッシュ達。
アムルももちろん既に戦闘体制に入っている。
その集中力は、普段のおちゃらけた彼女の雰囲気を感じさせる事のない程に研ぎ澄まされていた。
まるで、水中を蠢く気泡の一粒一粒までもをその身に感じ取ってしまえるかの如く・・・。

「・・・わかる。わかるよ。貴方達がどこを泳いでいるのか、私にはバッチシわかっちゃってるんだから!
でも、おっかしいなぁ・・・。さっきはソナーで一機だったのに、なんか2機いるみたい。
・・・ま、なんでもいっか。私のドグー盗んだの、貴方達ね?許せない〜〜!
今度は、私の”アムル☆ビーム”が迎えに行ったげるっ!」

”アンフィトリテ”の背部クロークがその頭部を覆うようにして前方に稼動する。
クロークの先端から放たれた二筋のフォノンメーザーの光は、なんと2機のアッシュの動きの先を読み、文字通り正面から迎えに行くかの如く迎撃した。

腕部と脚部にそれぞれ被弾しながらも、何とか致命傷を避ける2機のアッシュ。
ライアもジョーンズもその華麗なるフォノンメーザー捌きに驚きの念を隠せない。
なにより、こちらの暗闇の中での陽動旋回も全く意味を成していないようにさえ思えてしまう。

「何でこんなに的確に我々の位置が分かるんだ!?こいつ、本当にナチュラルでしょうか!!?量子コンピュータを持っている私はともかく、姉御の機体はステルスでしょう!?じょ、冗談じゃない!」

「パニくってんじゃないよッ!!!いいかい、ジョーンズ。ステルスといったって、後付の試作タイプで完璧じゃあないんだ。こんだけ至近距離にいたら、ある程度捉えられてもそれは仕方ないんだよ。

それよりも、いいかい?
あいつ、多分だけど”空間認識能力”を持ってやがるよ。

ウチの軍で”ドラグーン”ってのあんだろ?アイツを自在に操る事が出来るっていう、ズバ抜けた三次元座標認識を持ってるヤツさ。」

「あ、あの前大戦で、クルーゼ隊の隊長が持ってたとかって噂の、あれですか!!?」

ライアは頷きもせず矢継ぎ早に話を続けてゆく。

「絶対音感を持つ人間ってのは、普段聞こえる音が全て音符として脳内に入ってくるらしいね。
優れた空間認識力能力もきっと似たようなもんさ。似せて言うならば、絶対”空間”感ってとこかい?
プロゴルファーがフラッグまでのヤード数を目測するよりも遥かに優れているだろうね。
いわば、距離感を正確無比につかめるバケモノさ。こいつ、侮れないよ・・・!」


ライアの読みは当たっていた。
アムルはハーフコーディネイターであり、通常のナチュラルよりも反応速度等の運動神経は愚か、操縦技術や知識の吸収力等も突出して高い。
しかし、彼女はそれだけで海中のスペシャリストと呼ばれているわけではなかった。

そう、アムルが”魁龍クワイロン”の一員に抜擢された最大の要因はこの空間認識能力なのだ。
空間認識能力と言っても、それは勿論”気を感じて敵の居場所を感じ取るといったような超能力の類の力”ではない。

肉眼による目視や光学映像、レーダー反応、動きの先読みや戦闘経験・・・―

あらゆる索敵・環境情報が脳内で的確に整理されて行く事で、あたかも高性能な三次元レーダーのような感知能力に昇華されるのである。
そして、勿論の事この辺りの海域の海図は、既にアムルの頭の中に叩き込まれている。


彼女の統べる認識領海に入ってしまったものは、最早逃げる事など決して出来はしない。
七つの海を統べる海王ポセイドンに愛された”海王妃アンフィトリテ”の名は、彼女の愛機の名であると言うだけではなく、彼女自身の事でもあるのだ。


その時、アムルのディープフォビドゥン”アンフィトリテ”のサーチライトが海中で動揺する2人のアッシュを照らし、その姿を完全に捕捉した。

「今更あやまったって、許さないんだからねっ!!覚悟しなさい、”カワイイ感じの一つ目ちゃん”達っ!!」

アムルは目の前の2機の泥棒達に意識を集中し始める。

「さぁさぁ、大奮発で見せたげるっ!お代は一切いただきませんっ!
絵にも描けない美しさを誇る、アムルちゃんの織り成す鯛やヒラメの舞い踊り!!
竜宮舞踏会アクアファンタジア”の始まり始まり〜☆」

”アンフィトリテ”が舞を見せるかのように両手を広げると、一斉にフォノンメーザー砲と無数のスーパーキャビテーティング魚雷がランダムに発射されてゆく。

それはまるで、竜宮で美しき舞いを見せる魚の群れのように・・・。

「やばいっ!!!!ジョーンズ、逃げ・・・」

ライアがそう叫んだ時には、既に遅かった。

放たれたミサイルとフォノンメーザーは、それぞれがバラバラな自由軌道を描きながら、ブラックカラーのジョーンズのアッシュ目掛けて高速で泳いでゆく。

「う、うわぁぁあああ!!!!」

闇の中、不規則的な角度とリズムから放たれたそのほぼ全方位にわたる砲撃に、ジョーンズ機はかわすことも捉える事もままならないままにその身を海中に散らせた。
無数の気泡が鉄屑とともに大きく弾け飛び、その漆黒の海を揺るがすような振動が辺りに響き渡る。

「ジョ、ジョーンズゥゥゥ!!!!ち!ちっくしょう!!よりによって、あのデータごとお釈迦にされちまったっ!!!これで、フェイス昇進の夢も、何もかも・・・。
おい、そこの”人間レーダー(空間認識能力を持ったパイロットと言いたいらしい)”!!!ふざけやがって!!!ぶっ殺してやんよォォォッ!!!」

部下と手柄を一度に失い、激しい怒りに身を焦がすライアの気迫に、アムルは少しだけげんなりする。

「に、人間れーだー??意味わかんないし。あのさー、ゆっときますケド、最初にやってきたのはそっちじゃん!あたしだってねー、すっっっっっっっっごく!!!怒ってんだからね!!
この”怪盗・年増女(声から年上の女性と思い、『ドグーを盗んだ女の人』と言いたかったらしい)”ッ!!!」

「と・・・とし・・・!!!!あんたぁ!!言っちゃならない事をッ!!!死に晒せェッ、この小娘がぁぁぁぁ!!!」

激しい海の女達の激突は、心身共に益々ヒートアップしていった。


***


風を切り、大地を焦がすかのように一つの小さな光が闇夜を疾走する。
バーニアをフルスロットルに吹かしたティエンのアウローラの姿であった。

「頼む。頼むよ、アロイス。少しだけで良いから、僕を待って欲しい。早まった真似はしないで欲しい!じゃないと・・・僕は!!」

また、マスドライバーが・・・高雄カオシュンが焼かれるかもしれない。
しかも、友人の手によって・・・。
そんな思いが縦横無尽に駆け巡り、ティエンの心を大きく乱す。
祈るような気持ちでマスドライバーを目指すティエンは、ふと懐に持っていた懐中時計を開いて眼を落した。


そこにあったのは、”今は亡き男の笑顔”。
アロイスと同じく美しい銀色の髪をした一人の男の写真だった。


ティエンはその心をなんとか落ち着けさせようと”彼”に語りかける。

「・・・・・・なんだか、とても怖いよ。でも、これが僕の望んだ仕事・・・僕の使命なんだよね。僕が今、しっかりしないといけないんだよね。みんなを・・・姉さんを必ず守る事が、今の僕の・・・!」

悲壮な思いを胸に抱き、ティエンがその漆黒の闇を駆け抜ける。


***


「な、何なんだ、あのバケモノは!!」

高雄カオシュンマスドライバー守備隊は、既にほぼ壊滅的状況であった。
ダガーLとウィンダム”だった”無数の金属片の残骸が、煙と火花を上げながらその巨人の足元に横たわる。

なんとも凄惨な光景だ。

その事態を引き起こした元凶である巨人・ドグーは、ゆっくりと、ゆっくりと残る3機のウィンダムに近づいてゆく。
何もまだ報告を受けていない精鋭部隊のウィンダムパイロット達は、突然の友軍機の急襲とあまりの戦力差に動揺の色を隠せない。

フジヤマ社の新型とは、これほどのものであったのか?
そして、何故その新型が、このような暴挙に出ているのだ!?

しかし、それでも彼らは決して引く事はなかった。
彼らの後ろに広がるのは、この基地の要たる宇宙への架け橋、マスドライバー。
連合軍内でも希少価値の高いこの軍事施設の殿しんがりを務める誇りある立場である以上、例え命に代えてもこの場を引くことだけは彼らのプライドが許さなかったのかもしれない。
そう、それは相手が誰であってもだ。

「散開ッ!!!ここは断じて通さんぞ!!」

3機のウィンダムがビームサーベルを抜いて跳躍し、回りこみ、特攻し、ドグーに向かって3方向から一斉に急襲を掛ける。
しかし、・・・

「無駄だと・・・さっきから何度も警告しているでしょう。恨みはありません。だが!僕の邪魔をするというのなら、貴方達にもこの場に伏していただくしかない・・・!」

アロイスの声に呼応するかのように、ドグーの装甲各部に刻まれた幾筋ものレール孔から、幾発もの研ぎ澄まされた糸のような光線が一斉に迸る。

一瞬百閃―。

ドグーを中心として放たれたその無数のマイクロレーザーは、あたかも光の結界のようにその場を覆い、中に足を踏み入れた3機のウィンダムの全身を容赦なく貫いてゆく。

その様は全てを踏みにじる巨人そのものだ。

これが、ドグーに搭載された脅威の光学兵器、マイクロレーザー照射システム”ライトニングレイ”の威力であった。
幾筋もの高出力レーザーにより、その射程内に入った者は最早逃げる事も防ぐ事もできない、正に攻防一体の戦陣である。

「ヒュ〜・・・とんでもねぇな、その連合の新型。」

守備隊を瞬時に壊滅させたアロイスの機体の性能を目の当たりにし、アルフォード隊のアッシュパイロット達はその様に見とれるようにして感嘆の息を漏らす。
そんな仲間達の惚けたような様子に、アロイスは怪訝な声をあげた。

「そんな事より、”グングニール”のセッティングは終わったんでしょうね?急いで下さいよ。」
「ああ、もうちょっとだ。何しろ、旧式な上にステルスカプセルに積むためだのなんだのと、ちょっとした小型化調整を施していたからな。
お前なんだろ?”出力の調整”とかまで隊長に頼んでたってのは。いじりまくったお蔭で、支脚出したりするのでさえ手動だから、ちと厄介なんだよ。
それより、設置は本当にこの位置でいいのか?随分とマスドライバーのはずれに位置してるけどよ。」

アロイスは無言で頷く。

そう。ここで良い。
ここなら、出力範囲を最小限に抑えたこの”グングニール”が、高雄カオシュンの街に届くこともない。
そして、起動すれば一瞬でマスドライバーだけの機能を破壊できる。
そうすれば、MSで施設を破壊する事で時間を掛け、援軍との交戦で街に火の手を飛び火させる心配だってないんだ・・・!

全ては、街を再び傷つけずにマスドライバーだけを破壊するために計算しつくされたアロイスの策であった。
それほどまでに、アロイスはこのマスドライバーを使えなくしておかなければならない大きな理由があったのである。
それは、そう―。祖国、プラントを守るために・・・。

「おい、セッティング、完了したみたいだぜ?」
「よし!それでは、起動させてください!」

アロイスの合図にアッシュがその爪先でテンキースイッチに起動コードを次々と入力してゆく。
そして、滞りなくその入力が終了し、アロイスがほっと安堵の表情を見せたその時であった。


はるか後方から一筋の強力な収束火線砲が凄まじい勢いで飛来し、周囲に居た2機のアッシュを巻き込みながら見事”グングニール”のど真ん中を貫いた。

大轟音と共に大きく爆ぜる2機のアッシュと”グングニール”。


「ク・・・貴様ら・・・なんぞに!!高雄カオシュンは、マスドライバーは・・・もう二度と・・・やらせはせんぞっ!ザフトの俗物どもっ!!!!」


残った2機のアッシュとドグーのメインカメラがその火線の先に捉えたのは、”魁龍クワイロン”のMSパイロットの一人、シャライ・ミカナギのランチャーウィンダムであった。

「す、好き勝手やってくれたな、アロイス!私が・・・来たからには!!ハァ、ハァ・・・もうこれ以上、好きにはさせんっ!!!私が守るのだ・・・2年前、散っていった奴等のためにも・・・今度こそ、ここを!!!」

撃ち抜かれた足に応急処置を施し、軍医の制止を振り切ってそのまま出撃してきたシャライだったが、やはり出血によって眼が霞み、意識が朦朧としているようだ。
その口調にはいつものようにまくし立てる勢いが感じられない。

しかし、心の芯にある気持ちはいつも以上に強固であり、傷ついた体を奮い立たせる。

シャライを突き動かすは、不屈の執念。
そして、仲間達の中で唯一生き延びてしまった自分にとって、この国を守る事は必然であるという不動の信念であった。

アロイスは肝心要の機動兵器を破壊されてしまった事に対して、珍しく感情をむき出しにして怒号する。

「何て事をしてくれたんだ!!!今、貴方が何をしたか、お分かりですか?シャライさん!折角少しでも犠牲を出さないために・・・街を焼きたくなかったからこその”グングニール”だったというのに!!貴方のせいで台無しです!!!」

「フン、戯けた事を。ハァ・・・・・私を撃ち、守備隊を壊滅させ、そしてあまつさえ私達連合軍を・・・いや、”魁龍クワイロン”の仲間を裏切った貴様になど・・・・”何も言われる筋合いはないわっ”!!!ハァ、ハァ・・・アウローラの実技試験の時にも言っただろうが、この俗物が・・・。
かつての名家”帝薙ミカナギ”の名において、この私自らが今から貴様等に・・・引導を渡してくれるッ!!」

咆哮と共に、シャライ・ミカナギは渾身の力を振り絞って再び超高インパルス砲”アグニ”を構えた。

「おのれ、ナチュラル!!よくもふざけた真似を!!」

2機の漆黒のアッシュが両肩の4門のビーム砲を放ちながら、まるで闇夜をかける暗殺者の如く、ランチャーウィンダムに向かって疾走する。
しかし、ランチャーウィンダムはインパルス砲を構えたままその攻撃を避け様ともせず、微動だにしない。

シャライの意識は、既に動く事の出来ないほどに混濁していたのは確かだ。
しかし、動けなかったわけではない。”動かなかったのだ”。
体に数発のビーム被弾を受けながら、シャライはじっとその砲を構える。


あたかも、刀を鞘に収めて必殺のときを待つ剣豪の”居合い”のように・・・
そして、


「消え去れ、俗物ッッ!!!!」


抜刀・・・否、それは必殺の”抜光”―。


鞘から放たれたその超高インパルス砲の火線が鋭い刃の如く一直線に伸びてゆく。
その様は、あたかも向かい来る2機のアッシュの間を瞬時に斬り抜ける剣戟のようだ。

シャライのこの鋭い砲撃が、周囲の者から”抜光術ばっこうじゅつ”と呼び称されているのは伊達ではない。
彼とて選び抜かれたエリート部隊”魁龍クワイロン”の志士なのだ。

シャライの火線に貫かれ、アッシュは轟音とともに大きな火の手を揚げながら見事に爆散した。

・・・が、仕留めたのは一機のみであった。
シャライの朦朧とする意識が、わずかにその必殺の射線から火線をずらしてしまったのである。
生き残ったヘドリックのアッシュは、右腕を砲撃によって失いながらもその爆煙を突き抜けて満身創痍のシャライのウィンダムへ残る左腕のビームクロウを突き立てんと迫り来る。

「くたばれ、ナチュラル!!!」
「く・・・む、無念・・・!!」


”コクピットを貫かれ爆散するランチャーウィンダム”。


覚悟を決めたシャライも含めて、その場にいた全ての者がその映像を脳裏に思い浮かべて疑わなかった・・・その時だった。

ランチャーウィンダムの後方から飛来したハンドマインが、アッシュの残る左腕のクロウに炸裂し、ヘドリック機は後方へ激しく吹き飛ばされる。

「な、何ィ!!?お前は・・・東アジアの!!」


ヘドリックがそう叫んだ時には、最早手遅れであった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ヘドリックのアッシュは、ティエンの咆哮とともに特攻してきたアウローラのビームチェインソード”シィサンジン”の刃によってそのか細い胴体を真っ二つに切り裂かれ、為す統べなく爆散した。

爆炎の赤き光に照らされたその救世の主・アウローラは、ビームエッジをチェーンソーのように激しく回転させるその剣を振り切ったまま両の足で大地を踏みしめ、正面を見据えて戦闘の構えをとる。
東アジアの小戦士が見据えたその先にあるのは、僚機となるはずであった東アジアの巨人、ドグーの姿だ。

「シャライさん!そんな体で無理してっ・・・。大丈夫ですか!!?」
「フン、貴様に心配される・・・筋合いなどない・・・この俗物。・・・大体今まで、どこをほっつき歩いていた!?この私が出なければ、マスドライバーが危ない所だったのだぞ。」

シャライは心配するティエンの声を突っぱねるようにして叱咤する。しかし、その声にはいつもの嫌味な雰囲気はどことなく感じられなかった。

「す、すみません。」
「フン・・・だが、まあ・・・貴様にしては上出来だ。・・・・その、アレだ。た、助かった。礼を言っておく。
私はアロイスに借りがある。だから、私がこのままヤツとやっても一向に構わないのだが、オペレーター如きの相手など、私が出る幕もなかろう!!
・・・あとは・・・”貴様に任せても大丈夫だな”!?ティエン。」

あれほどアウローラは任せられないと公言してはばからなかったシャライの口から出たその言葉に、ティエンは胸がぐっと熱くなる。そして、迷う事なく力強く答えた。

「はい、シャライさん!!僕だって”魁龍クワイロン”の一員です。あとは僕がやりますから、シャライさんは安心して休んでいてくださいっ。」
「私を怪我人扱いするなっ!!・・・言っておくが、ティエン。油断するなよ。今、貴様の目の前に立っているあのアロイスは・・・私達の知っているアロイスではないかもしれん。」
「・・・わかっています。でも・・だからこそ、僕がやらないと・・・!」


目の前に立つその小さなガンダムを睨みつけながら、一人複雑な思いを押さえつけるかのようにアロイスはつぶやく。

「ティエン・・・・。ゼーヤさんを・・・倒した!?いや、それは在り得ない。あの人はあの通りの一風変わった性格だが、ヤキンを戦い抜いたフェイスとしての実力だけは確かのはず・・・。恐らく、増援か・・・。
思った以上に時間がかかりすぎているという何よりの証拠だ。急がなければ、全てが・・・・プラントが終わってしまう・・・!!
・・・・そのためなら、ティエン。・・・”シンシアさん”・・・。僕は・・・!」

悲痛な覚悟を胸に秘めながら対峙する親しき二人のその譲れない想いは、お互いの守るべきものの為。
擦れ違う2人の少年達は、今正に衝突の時を迎えようとしていた。


≪PHASE-06へ続く≫